神隠しの少女 | ナノ






重たい瞼をこじ開ける。視界に入った天井が見慣れないもので一瞬ここがどこか分からなかった。そういえば私は承太郎たちを追ってシンガポールまで来てたんだっけ。で、デーボさんとラバーソールを引き抜いて…。
思っていた以上に血が足りなかったのかほんの一時間かそこら前の記憶すら曖昧で思わず苦笑してしまう。デーボさんの頭撃ち抜けとか結構過激なこととか言ってたな私。

「…にしても」

なんなんださっきの夢は。休むはずだったのに休めた気がしないぞ。目を閉じて眉をしかめていると人の気配が近づいてきた。
そのままの体勢でいると扉が開けられて話し声がクリアに聞こえた。

「あれ?まだ寝てんな」
「起きてるよ」

ラバーソールの声に目を開ければ、皆揃っている。上半身を起こせば承太郎が少し心配そうな顔をしたものだから、軽く手を振っておいた。…そんなしかめっ面されると妹は悲しいよ。

「悪い、起こした?」
「ううん。夢見が悪くてさっき起きた」
「どんな夢見てんだよ」
「…清姫事件の時の夢」

私の言葉にラバーソールが口元を引きつらせた。

「また、懐かしいもん見てんな」
「ねー」

家を襲ったあの女の人のせいかもしれない。これからはこの間の事を清姫事件パート2と呼ぼう。そしてDIOに苦情を突き付けよう。
そんなことを心に決めてるとアヴドゥルさんが清姫事件?と首を傾げた。…寝起きとはいえ口が滑ったなあ。

「昔色々あったんだよ」
「どんなことだ?」

承太郎がじろりと睨みつけながら問い詰めてくる。

「ラバーソール。よろしく」
「俺かよ!?」

なんて言えばいいんだよ…とぼやきながらラバーソールは話し始めた。

「あー…DIO様に惚れ込んだ女が館中巻き込んで乱闘した事件…?」
「まあ間違ってはいないねー」
「で、茉莉香が手に穴開けたんだっけ?」
「そこまでは言わなくてよかったかな!」

ラバーソールの無防備な脇腹に手刀を突っ込んだ。咳き込んでいるが知ったことか。だって皆凄い顔してるしな!

「どういうことだ」
「…その女の人がナイフ持ってて振り回してたんだよ。で、出くわした私が手刺されたの。まあ治療の甲斐あってなんの問題もないけどね」

DIOに治されたっていうのは言わなくてもいい事だろう。うん。
険しい顔をしている皆から目を逸らしていると、典明君が困ったように笑いながら確かにそれは悪夢だね、と言ってくれた。その気遣いに乗っかって頷いておく。
…本当はその後DIOに怒られたことを夢に見たんだけれど。彼が怒りを露わにしたのは二回目の邂逅で首を絞められた時以来だった。というか、あの時よりも怒っていた気がする。
そして何よりも、あそこまで心配そうな顔をした彼を見たのは初めてで。今でも思い出すと罪悪感的なものがチクチクと痛むのだ。多分今回腹に穴が開いたことがばれたら、前回よりも厳しい怒りに晒されるうえに更なる罪悪感を背負いかねない。苦情をつける際には絶対にばれない様にしなければ。
一人そんな覚悟を心に決めた。

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