神隠しの少女 | ナノ






波の音と錆びた鉄の匂い。ボロボロになって打ち捨てられた倉庫の中、私と偽船長は言葉なく向かい合っていた。

「こんにちは」
「…お前が空条茉莉香か」

名乗っても居ないのに名前を呼ばれて少し驚いた。まあ、冷静になればDIO達から聞いてるってだけなんだろうけど。

「お前には手を出すなって言われててなあ。さっさとオレを元に戻せば酷い事はしないぜ?」
「…それは出来ないですね」
「なんだと?」
「このお仕事から手を引いては頂けませんか?」
「それこそ出来ねえな。お前の兄貴たちにいくらの懸賞金が掛かってると思ってるんだ?」

ニタリと嫌らしい笑みを浮かべる男に苛立ちを覚える。というか私は忙しいんだ。出来れば穏便に済ませたかったが彼が拒むのならばしょうがない。

「なら、実力行使で止めさせて頂きますが」
「それはオレも同じだよお嬢チャン!!!」

自信たっぷりに男が叫ぶ。多分後ろにはダークブルームーンが私を狙っているのだろう。
しかし、そんなことは関係なかった。何故なら彼女はもう、触れているのだから。
開け放たれていた扉の先から水を掻き分ける音がした同時にゴトンと重量のあるものが落ちる鈍い音が響く。ごろり、と首だけになった男は何が起こったのか分からなかったのか、歪んだ笑い顔のまま濁った瞳で虚空を見ていた。

それを確認したと同時に腕に痛みが走る。咄嗟に後ろを振り返ると、男のスタンドが薄れて消えていくのが見えた。最期の一撃を受けてしまったということか。パックリと切れた傷跡に顔を顰める。あ、これ痛いわ。

「…どう言い訳しよう」

思わぬ痛手にぼやきつつ、血が垂れないように着ていたカーディガンで腕をグルグル巻きにする。
一応止血らしきことをしてから男の首をもう一度眺める。…この人ってどうやって姿を真似たんだろうか。他人の空似と言うには似過ぎだろう、長い付き合いの船員をも騙していたわけだし。
…まあ、知らなくてもいいことだろう。これだけ似ていれば親族も気付かないだろうし。他人を夫や父親だと思った上こんなどう見ても他殺体で帰ってくるのは可愛そうだと思うがドザエモンよりはましだわな、うん。
そんな取り留めもないことを考えつつ断面からじわじわと血を広げていく首の側に男の身体を転がした。
急速に広がって行く血が靴を汚しそうになって一歩後ずさる。ああ、早く帰ってホリィママの方も頑張らなきゃ。

やることの多さにげんなりしながらその場を後から立ち去る。後に残されたのは、噎せ返る様な血の匂いと人だったものだけだ。

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