神隠しの少女 | ナノ






次に目を覚ますと白い天井が見えた。空条家のものではないそれに身体を起こすと腹部に痛みが走る。しかし、それは到底穴があいているとは思えない程度のものだ。いつの間にか着せられていた病衣の前を開くと、そこにあった筈の傷は随分と小さくなっていた。あれだ、部位は違うにしても盲腸の手術痕みたいな。

「起きられましたか」

いきなり声を掛けられて隣を見ると、監視役のお兄さんが寝ていた。…生きてたんですか、と思わず失礼な言葉が口から飛び出す。

「ええ。なんとか一命は取り留めました。運よく血管や臓器に傷も付きませんでしたし」
「そ、それはよかったですね」

どことなくじっとりとした視線を向けられて目が泳ぐ。置いていったことを恨んでるんだろうか。仕方なかったじゃないかと心の中で言い訳を繰り返す。

「あの、ここは?」
「財団の息のかかった病院です。ここなら警察などにも連絡はいきません」
「そうですか」

お兄さんの言葉にホッとする。だってなんて説明したらいいか分からないし、この事件の犯人はもうこの世には居ない訳で。

「それより」
「はい?」
「前、お閉めになって下さい」
「…ああ、はい。お見苦しいものをお見せしてすみません」

つい開けっぱなして忘れていた病衣の前を閉じる。僅かに引き攣る腕の痛み。どうやら腕の方もだいぶ改善してるらしい。いやはや、それにしてもみっともないものをお見せしてしまった。ぽすん、とベッドに倒れてあくびを一つ。久々にゆっくり寝たな…。…あれ?大切な事を忘れてるぞ?

「あの、母は?」
「ホリィさんなら別室で休んでいます。何故か高熱は下がったようですが、過労で倒れてしまって」
「なっ!」

その言葉に慌てて起き上がる。過労ってどういう事だ。お母さんに何かあったらどうするんだよ。急いで見に行こうとする私をお兄さんが手で制する。少し寝てれば大丈夫だそうですと続いた言葉にまたベッドに横たわる。
過労、かあ。どう考えてもスタンドの使い過ぎだろう。意識を失う前に見た伸びる蔓と暖かい感覚。私の怪我を鑑みるに多分仗助と同じ癒し系のスタンドだったんだろうなあ。優しいお母さんにお似合い過ぎてつい笑ってしまう。
…ああ、それにしても窓から入る日が眩しいなあ。…いやいや、ちょっと待て。

「…あの事件からどれくらい時間が経ってるんでしょうか」
「あれは一昨日のことです」

…え、ええー!ちょっと待て、いいか冷静に考えろ私。そう自分に言い聞かせながらもお兄さんが見ているにも関わらず虚空からノートを取り出した私はかなり混乱してると言える。目を丸くするお兄さんに構わずパラパラとページをめくる。香港を出て、偽船長とのことは処理した。で、船倉の爆弾が作動したとすると、彼らはストレングスと戦った筈だ。そのまま一晩漂流して…。船に拾われたのが昨日の事。…もしかしてデーボさんと合流してたりす、る?

「あ、あの!」
「は、はい」

いきなり大声を出した私にお兄さんがびくりとするが知ったこっちゃない。

「承太郎達の情報は入ってますか!?」
「え、ええ」
「彼らは今どこに!?」

今にもベッドから飛び降りそうな私を手で宥めつつお兄さんが口を開く。

「シンガポールに向かう途中乗っていた船を爆破されたそうです。その後動物のスタンド使いと戦闘を経て漂流…昨日の昼に近くを通った漁船に救助されたそうです」
「そ、それで。もうシンガポールには?」
「そうですね。予定より少々遅れたらしいですが…」

時差を考慮してもそろそろ着く頃ではないでしょうか。お兄さんの言葉に止められるのを無視してベッドから降りる。

「な、何をしているんですか!」
「退院します」

私の言葉に一瞬呆気に取られるお兄さん。それを尻目に服やら靴やらを取り出す。お兄さんから見ればいきなり物が現れる訳の分からない現象だが、そんなものさっきノートを取り出した時点で慣れて頂きたい。

「傷はホリィさんの能力で癒えたようですが、あなた出血多量で死にかけたんですよ!?」

その言葉に呑気に死にかけてたのか、なんて思いつつ着替える。恥じらいなんてこんな緊急事態に頓着する様なものではない。

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