甲高い悲鳴と共にお姉さんが手を押さえた。落とした筈の私の指はきちんとついている。反対に地面に転がったお姉さんの指には、色違いの指輪が嵌められていた。
ナイフで指先を切ればチリっとした痛みと共に血の球が浮かぶ。どうやら、正解だったようだ。
「…あなたが、さっき両、手を上げな、かったら、気付きません、でした」
考えてみればお姉さんはずっと右手だけを使っていた。銃を掲げるのも、ナイフを使うのも。それは意識的か無意識的か分からないが、あの指輪を隠すためだったのだろう。
私の指に嵌められたそれと、対の指輪。
多分、被害を交換する役割をこなしていたのだろう。それがお姉さんから失われたから、私の傷は私に与えられた。
「ど、して…?」
「?」
「自分を、嫌わなければ、返らない筈なのに…!」
…ああ、お姉さんが言った中には事実も含まれていたのか。"悪意"がある攻撃は交換される。つまり悪意がなければただの自傷行為に終わったわけだ。怖いなあ。
「…すみ、ません」
私、案外自分の事嫌いなんです。そう言えばお姉さんは目を見開いて。
「じゃ、さよ、なら」
スピリッツ・アウェイがお姉さんに触れて。そしてそこには彼女の流した血だけが残った。
それを見届けてどさりと倒れ込む。だくだくと血を流してるせいか非常に寒い。擦れていく視界の中、お姉さんのスタンドを思い返す。怖いスタンドだった。お医者さんが私を撃とうとしなかったら交換という所に気付かなかっただろう。あの時はイラっとしたが許してやろう。
にしても最終的には自分を嫌って自傷行為しないと相手を倒せないって中々精神的にキそうだな。そう考えるとあの人は元々思い込みの激しい人だったのだろうか。自分が本当に嫌いでそれが辛くて誰かに代わって欲しかった、とか?
…一歩間違えたら私も同じようなスタンドを発現してそうで笑えない。
「茉莉香…!」
手を誰かに握られる。うっすらと開いた目に涙を零すお母さんが見えて。泣かないで、といいたいのに身体も口も動かない。
…少し休みたいな。で、今度は承太郎の所に行かなきゃ。ぼんやりとしていく思考と視界。その中でお母さんの腕からにょきにょきと蔓が出てくるのが見えた。それが私に巻き付く。
冷え切っていた身体がじんわりと暖かくなっていく。その心地よさに一つ息をついて。
ああ、なんだかいい夢が見れそうだなあ、なんて思いながら目を閉じた。
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