「DIO様を誑かす女がどんな顔をしてるのか見ようと思って」
表情と全く釣り合わない絶対零度の声音に以前DIOの館で出会った女性の事を思い出す。恋に狂ったあの人。お姉さんは彼女と同じ存在だ。しかし、ならば何故DIOと関わり合いのある私ではなくホリィママを探している?
「お母さんったらあなたと承太郎なんて大きな子どもを持ってる癖にDIO様に近付くなんて失礼よねいいえ、失礼どころか万死に値する行動だわだから身体を壊したのよでもほら私は優しいから苦しまずに殺してあげようと思ってどんな身分であろうとDIO様に惹かれる気持ちは分かるもの」
ノンブレスで捲し立てるお姉さんに、それ大きな勘違いですよ。と思わず口をついて出た。
「…どういうこと」
「DIOと関わりがあるのは」
私です、と言おうとする前に足音に遮られる。お兄さんが戻ってこない私にじれて見に来たらしい。
「どうしました」
「いえ、何でもないです」
だから向こうに行っててくださいと言う前にお姉さんが黒光りするものを掲げて。
「あなたもあの悪女に騙されてるのね、可哀想に。でも今楽にしてあげるわ」
いやいや、思い込み激しすぎるだろ。なんて混乱した頭が呑気に突っ込みを入れる。しかし、現実はそんな場合ではなくて。耳を劈く音、ギリギリでかわしたお兄さんが同じように銃口をお姉さんに向けて。あんたも持ってたのかよ、なんて思う間もなく発射されたそれは銃を持つお姉さんの腕に向かって一直線、だった筈なのに。弾丸はお姉さんの腕を掠める。しかし実際に血を流したのは私の腕だ。
「うぁっ…!」
鮮烈な痛み。腕の傷口を更に抉られ、止まりかけていた血がまた流れ始めた。…一体どういうことだ。私が混乱している間にお姉さんはお兄さんに向ってもう一発。腹部に当たったお兄さんが崩れ落ちた。歯を食いしばりながらなんとかお姉さんを見れば、ニタリと笑った。
「痛そうね、可哀想に。でもあなたのお母さんが全部悪いのよ。とばっちりで怪我しちゃったわね」
「…だ、から、勘違いです、って」
「…なんですって?」
「DIOと、会ったことがあるのは私で、母が彼に、会った事は、ありません」
息を整えながらなんとか伝えれば、お姉さんは目を見開いた。
「…だって、あの男はDIO様の命令であなたのお母さんを助けるために芝居を打つ筈だったんでしょう?」
きょとん、とした顔で尋ねてくるお姉さんはどこか幼気で、こんな状況じゃなかったら中々好みだっただろう。気の強そうな女性の隙のある表情大好物です。なんて馬鹿な言葉が浮かんでは消えた。…あれ、っていうか今この人なんて言った?
「あの男…?」
「ええ。彼、この家に強盗に入ったふりをするんだって言ってたわ。あなたのお母さんを助ける手助けになるって。全く、DIO様ったら何を考えてらっしゃるのかしら。そんな年増の為に時間を割いてそんなことお考えになって」
「…だからDIOと関わりがあるのは私ですって」
「お母さんを助けるために健気ね」
いい子いい子、と笑うお姉さんに頭が痛む。駄目だ、意思の疎通が出来ないこの人。
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