神隠しの少女 | ナノ






痛む腕を抑えながら家から少し離れた路地に出る。家の中に直接行っても良かったが誰かとはち合わせたりしたらまずいし、なによりこの傷は家の中じゃつかないだろう。
…とりあえず監視の目を盗んで散歩に行ったら転んで、側から飛び出てた釘で切ったってことにしよう。かなり強引だけど仕方ない。だらだらと歩きながら、ホリィママの様子を見て、監視の人がまだ寝てる様だったらテレンスさんの所に行こうと決める。時間的にDIOが起きているとは思うが、上手く行けば会わない、よね?かなり行き当たりばったりだけど協力者の存在は必要だし。

DIOに会いたくない訳じゃないけど、一応承太郎側に付く的な事は言ってある訳だし。宣言した訳ではないけど、承太郎達が出発したことで私が彼らの為に動いている事は分かっているだろう。でも会いたいなあ。笑われても怒られても、冷たくされる…のは嫌だけど。でも、会いたい。そういえば承太郎達は無事だろうか。偽船長は排除したけど爆弾には手を出してないし。多分大丈夫、だよね?
ぐるぐると忙しなく思考が飛びまわる。血が足りないのかもしれない。頭に浮かぶのはDIOの顔と承太郎達の事。会いたいなあ、なんてポツリと呟く。ああ、会いたいのはDIOだっけ承太郎だっけ。いや、今はきっと酷い顔をしてるから会うならDIOだ。DIOに会って、馬鹿だとかなんだとか叱られて、いつもみたいに呆れたように頭を撫でてほしい。なんて子供じみた願望か。

「ただいま…」

傷の痛みよりも纏まらない思考に疲れつつ玄関を開くと、慌てた顔のお兄さんが立っていた。私を見て怒鳴るように口を開くが、服に滲んでいる血に顔を青くした。

「どうしたんですか…!」
「息抜きに散歩してたら転んじゃって」

飛び出てた釘に腕ひっかけちゃいました、と苦笑すると私の手を引いた。

「直ぐに医者の所に行きましょう。今ならホリィさんの部屋です」
「…はーい」

叱られるかと思ったが、どうやら先に治療を受けさせてくれるらしい。ありがたい事だ。でもお兄さんが起きてるとなるといつテレンスさんの所に行こうか悩んじゃうなあ。前を歩くお兄さんを見ながらどうしようかと頭を捻る。そうこうしてる間にもうホリィママが寝てる部屋の前だった。

「失礼します」

お兄さんが襖を開くとお医者さんが振り向く。ぴくりとも動かないホリィママはどうやらまだ意識がない様だ。

「茉莉香さんが怪我をして…」
「おや、診せてください」

腕を差し出せば眉を顰められた。何で怪我をしたのかという質問に、先程お兄さんに言ったのと同じ言い訳をする。流石にお医者さんの目は誤魔化せないのか訝しげな顔をされたが、目を逸らさずにいると諦めたようにため息をつかれた。

「縫った方がいいですな」
「え゛…」
「やはりそうですか」
「いやいや、普通に消毒して頂ければ十分ですから!」

身体に針を刺されるのなんて真っ平御免である。必死に説得を繰り返すが二人も譲らない。どうしようかと涙目になってきた時、玄関のチャイムが鳴った。

「み、見てきます!」
「私が…」
「いえ!いいですから!」

引き留めようとするお兄さんを振り切って玄関へと走る。未だに血が滲み続けてはいるが、大分出血も止まってきたしテープで止めるだけで十分だろう。うん、それがいいそうしてもらおう。一人勝手に納得しながら玄関を開く。そこには美人なお姉さんが立っていた。

「え、っと」
「こんにちは」
「こんにちは。何かご用でしょうか」
「お母さんのお見舞いに来ました」
「…それはどうもありがとうございます」

大きな花束を差し出すお姉さんに花束を受け取りながら私も笑い返す。どうぞ、と玄関に招き入れて。

「お母さんはどこに?」
「…そんなことより、本当の目的はなんですか」
「…お母さんのお見舞いよ?」
「母が倒れた事は誰にも言っていませんが。…どこでお聞きになられたんですか」
「…」
「何が目的ですか」

もう一度問いかければ振りかえったお姉さんの顔から表情が抜ける。能面の様なその顔に更に警戒心を強めた。
お姉さんが無表情から一転、にっこりと笑って。

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