神隠しの少女 | ナノ






マーケットで食材やらなにやらを買い込む。ヴァニラと私が一緒に居ると喧嘩になるのでヴァニラとは別行動だ。
えーっと、デーボさんにプリンを作ってもらうには卵と、砂糖…後は牛乳とバニラエッセンスか。バニラエッセンスと砂糖はこの間テレンスさんとお菓子作りした時にまだ結構残ってたよな。


「テレンスさんテレンスさん」

「はい?」

「デーボさんにプリン作ってもらう約束したんですけど卵と牛乳多めに買って貰ってもいいですか?」

「ええ、いいですよ。…それにしてもわざわざデーボに頼んだんですか?」

「え?あ、はい。デーボさんお菓子作り上手ですよね!」

「…私も案外上手い方だとは思いますがね」


少しばかり拗ねたように呟くテレンスさんに思わず顔が緩む。なんだこの負けず嫌いくっそ可愛い。


「テレンスさんが作ってくれるプリンも美味しいですよ!大好きです!」

「…当たり前ですよ」


ふん、とばかりに言い放つテレンスさんの顔がちょっと嬉しそうだったのがまたツボで抱きつけば危ないでしょう、と怒られてしまった。

三人、しかも実質二人で運ぶには中々骨の折れる量の買い物が終わると、人気のない路地に入って私のスタンドの中に収容した。本当にうちの子は使い勝手がいいね!ありがと、というと笑みを深める彼女にほのぼのとしてしまう。
後ろの方でこいつが居ると楽だな、とか今度も連れて行きましょうかとか不穏な言葉が聞こえたのはスルーだ。連れて来てもらえるのは嬉しいが、こちらも一応学生なので夜更かしのし過ぎは避けたい。小さな積み重ねが年いってからお肌に現れるんだよ!


「さて、じゃあ茉莉香御所望の屋台によって帰りましょうか」

「DIO様が待っていらっしゃると言うのに手間を取らせおって」

「いや、まだ寝てるでしょあの人」


ぶちぶちと文句を言うヴァニラを引っ張って屋台まで戻る。おやつ時だからか周りに用意されていた席に空きはない。歩きながら食べることになるかな、なんて思っていたがヴァニラの一睨みで食べ終わった人達はそそくさと散って行った。強面ってこういう時役に立つよね。周りから少々聞こえた黄色い声は脳内でデリートしておく。
手に入れたおやつを手に三人で席に着いた。館の大掃除がしたいとかそんなことをだらだらと喋っているとテレンスさんがハッとしたように立ちあがる。


「私とした事が洗剤を買い忘れていました…」

「戻ります?」

「いえ、直ぐ戻ってくるのでお二人はここで待っていてください」


さっさと歩きだすテレンスさんを見送ってからそっとヴァニラを覗き見る。…やっぱりイケメンで心底腹立たしい。


「何人の顔をジッと睨んでるんだお前は」

「んー…」


いつの間にか睨みつけていたらしい。流石にイケメンなのがムカつきますとは言えなくて言葉を濁す。そんな私に一つため息を吐いてからヴァニラがこちらに手を伸ばしてきた。急なことに肩が跳ねるがそんなことはお構いなしに私の口元を荒々しく拭う。


「口の周りに物を付けるな。阿呆な顔が余計阿呆に見える」


馬鹿にしたように鼻で笑うがその表情すらイケメンなのだから嫌になる。


「くそヴァニラめ…」

「何故いきなりそんな事言われなければならんのだ…」

「ヴァニラのくせにイケメンとか生意気だ」


そっぽを向きながらそう吐き捨てる。何かしら言い返してくるかと思ったが無言なヴァニラを見ると、普段常駐している眉間のしわが無くなりキョトンとした顔をしている。そして一拍置いてから慌てて視線をそらした。…もしかしてこれって。


「ヴァニラ照れてる?」

「うるさい黙れ」

「照れてんじゃん」


ニヤニヤと笑いを浮かべながら追い込めば拳が降ってきた。頭を涙目になりながら頭を押さえる。痛みが引いてきた頃にはいつもの仏頂面に戻ってしまっていた。


「…普段からそういう格好してればいいのに、似合ってんだから」

「DIO様から賜った服を着ない訳にはいかんだろう」


そう言うヴァニラの表情はどこか苦々しいものだった。…あの服がおかしいということは気付いているらしい。いや、気付いて当然だけど。しかし気付いていてもブルマと言う変態チックな衣装を着る程の忠誠心か、涙が出ちゃうね!今度気が向いたら他の服あげるように言っとこう。そんなことを思いながらまじまじとヴァニラを眺める。白い肌は夕陽で仄かに赤く染まっていた。髪もどこか不思議な色合いになっていて、それがまた似合っている。イケメンって何でもに合うよね全く。
…こうして彼が夕陽に当たれるのは後何度だろうか。もう少ししたら彼は敬愛する主人と同じ吸血鬼へ生まれ変わるのだ。そうなれば彼がまた日を浴びるのは死に臨む時だけである。しかし、目の前に居るこの男は、DIOの為ならと妄信的に従い、それに喜びを見出すのだろう。私が口をはさむ隙はそこにはない。ならば、今この瞬間を忘れないようにしなければ。
ジッと見つめる私に疲れたのか?と僅かに心配の色を浮かべるヴァニラに大丈夫だと笑いながら、夕陽に照らされた彼を眺め続けた。



シンデレラの様に
着飾ったら美人とかってずるいよね、うん。

[ 3/3 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]