神隠しの少女 | ナノ






その日私はご機嫌だった。


「…こんな時間に何の用だ」

「DIOは寝てていいよ」


締め切られた雨戸の外では太陽が燦々と輝いているであろう時分に館を訪れれば、案の定主人は就寝中だった。起こさないように部屋から出ようとしたものの、さっくり気付かれて機嫌が悪そうにこちらを睨んでくる。しかし、その視線も眠いのか普段に比べて迫力に欠けていた。口をへの字にするDIOに苦笑しながら寝てろと言えば、反対に身体を起こす。…この天の邪鬼め。


「なんの用だと聞いている」

「テレンスさん達と買い出しに行くんだよー」

「買い出し…?なんでお前がわざわざそんな事を」

「だって普段DIOあんまり外行かせてくれないじゃん」

「当たり前だろう。お前の居る日本とは違うんだぞ」

「そうだけどさー…。今日はテレンスさん達も居るし行ってもいいでしょ?」


私の言葉に少しの間沈黙していたが、眠気が勝ったのか『テレンス達に迷惑をかけるな、はぐれるな。もしはぐれたらペット・ショップを呼べ』なんて言い放つとまたベッドに沈んで行った。…あまりにも子供扱いし過ぎじゃないだろうか、というかスタンドが有れば迷子になっても帰ってくるくらい出来るのに。なんてムッとしたが、反面心配してくれたのは嬉しかったので文句は言わずに部屋を出る。

待ち合わせ場所である広間に向かっている最中にデーボさんとホル・ホースさんに出会った。


「珍しい組み合わせだね」

「おう、偶然館の前で会ってな」

「へー。あ、デーボさんデーボさん」

「んだよ」

「これから買い出し行くんだけど、材料買ってくるからプリン作って下さいなー」

「…面倒くせえ」

「えー」

「おいおい、レディの頼みは聞いてやれよ」

「どこにレディが居るんだよ」

「酷い!」


渋るデーボさんに何だかんだと二人掛かりで文句を言うと、諦めたのか気が向いたらな、と言ってくれたので意気揚々と別れた。きっと作ってくれるだろう、デーボさん優しいし。
思いがけない収穫にうきうきとしながら広間の扉を開けた。そこから目に飛び込んできたものが良く分からなくて一瞬固まる。


「…すいません、間違えましたー」

「何を間違えたと言うんだ貴様は」


閉めようとした扉が力強い手で止められる。訝しげに問うてくる低い声も、見上げた先のしかめっ面も慣れたものだ。そう、慣れたものの筈だが。


「いやいやいや、うっそだー」

「何がだ」


ますます眉間のしわが濃くなる目の前の男性―ヴァニラをまじまじと見つめる。普段降ろしている髪は結ばれ、存在を主張していたハートの額飾りは取られており、ピアスも一般的なシンプルなものに変えられていた。そして何よりも身体の…特に下半身をアピールする様なブルマ姿ではなく、スラックスとシャツというありふれた、つまり普通の人がする様な格好をしている。…え、やっぱりこれそっくりさんでしょ?


「何してるんですか?」


後ろからテレンスさんの声が聞こえて勢いよく振り返る。


「テレンスさん、ヴァニラのそっくりさんが侵入して…」


言い切る前に口が止まる。後ろに立っていたテレンスさんは、普段結いあげてる?髪を下ろし、ヴァニラと同じように結んでいた。顔の模様もなく、服はジーンズに七分袖のシャツというスッキリとしたものである。


「茉莉香?どうかしましたか?」

「て、テレンスさん?」

「はい?」


私の勢いに押されるテレンスさんに構わず思い切り抱きつく。驚きながらも受け止めてくれるこの人はやはり中々に紳士だ。


「テレンスさん滅茶苦茶格好いいですね!イケメン!」

「ああ、ありがとうございます」

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