神隠しの少女 | ナノ






朝皆を起こして港まで見送りに来た。承太郎達は寒いし来なくていいと言っていたが、少々気になる点が有ったので着いて行くことにしたのである。

「おはようございます」
「ああ、あなたが船長ですかな」
「ええ」

ジョセフおじいちゃんの問いかけに頷く男をジッと観察する。そう、私はこの船にダークブール―ムーンの使い手が待ち伏せていないか確認しに来たのだ。シンガポールに向かう船ではないし、気にし過ぎとは思うが念には念を入れておきたい。あの男が船長と入れ代れたのは本当に似ていただけか、それとも他の手段で姿を変えたのか分からないのだから。
ジョセフおじいちゃん達が荷物を運び入れている隙に船長と言う男に近寄る。

「あの、祖父たちの事よろしくお願いします」
「ああ。任せておいてくれ」

私の頭を撫でる船長は海の男、といった豪快そうな笑顔を浮かべた。…なんだか疑うのに心が痛むなあ。そう思いながらも目の前にスピリッツ・アウェイを発現させた。しかし、彼はそれに対して何の反応も示さない。一応触れさせてみたりもしたが変わりはなし。どうやらこの人は一般人らしい。
他にも一通り船員らしき人達の周りを徘徊させてみたが、妙な動きをする人は居なかった。この船にあの男は居ない。それを確認すると少し気が楽になった。

「承太郎」
「なんだ」
「これ、皆で食べて」

持ってきたお弁当を渡すと、ありがとよ、なんてぶっきらぼうな返事が返ってきた。

「承太郎の好きなおかず沢山入れといたからね」
「ピクニックに行くんじゃねーんだぞ」

そんなこと言いながらもちょっとだけ頬が緩んだのを妹は見逃しませんよ!にやにやしてると頭を軽く叩かれた。照れ隠しは分かるけど痛いぜ承太郎…!

「…気を付けてね」
「ああ」
「…大変な旅になるけど、頑張って」

上手く笑えないだろうけど、なんとか顔面筋を動かす。ああ、心配だなあ。そんな私の頭を乱暴に撫でて船に乗る承太郎を見送る。港から離れる船を目を逸らさずに見つめる。ああ、早く合流できるように頑張らなくちゃ。

付き添ってくれた財団の人と一緒に車に乗り込み家へと向かう。…言っちゃ悪いけど自分で帰った方が早いよね、一瞬だし。そんな無体なことを考えながら、これから自分のするべき事に思考を巡らせる。

まずはホリィママの事だ。これについてはもうある程度の手は打ってある。問題は決行する時期。ホリィママの身体が良くなったとしても、きっと彼らは旅を止めない。
ダークブルームーン戦では承太郎が船長に扮した男に手を下すことになる。それを避けるためには、私が彼を排除しなくてはならない。しかし、一緒に行動するとなると難しくなるし…。だからと言って遅すぎるとデーボさんの身が危険に晒されかねない。となるとやはり皆がストレングスと戦ってる時が一番好ましいだろう。私は少しばかり忙しなくなるだろうが、こればかりは仕方ない。

さて、ではこれを上手くやる為には彼らの行動を細かく知る必要があるな。チラリと斜め前を覗き見る。…運転席に座るこの人はきっと私の監視なんだろう。今朝のジョセフおじいちゃんは私に対してどこかぎこちなかった。この人と話しながらこっちチラチラ見てたし。…策士のくせにあの分かりやすさはどうかと思う。まあ、それだけ私を疑うというか、見張らせることに罪悪感を覚えてくれたというのは嬉しくなくもないが。
まあとにかく、彼は家に居る財団から派遣された医師達よりも皆の行動を把握している筈だ。ということは、この人から情報を得るのが一番早い。…こんな時DIOみたいに肉の芽とかあったら便利なのになあ、なんてため息をつきながら窓の外を流れる景色を見つめていた。

「どうかしましたか。…具合でも?」
「あ、いえ。…皆のことが、心配で」

いきなり声を掛けられてびっくりしたが、なんとか取り繕った。ついでに眉をしかめて涙ぐむと言うオプションも付ける。…運転席から見えるのか疑問だったが。しかし、ミラー越しに見えたようで彼は、それまでの無表情に少しばかり同情的な色を混じらせた。

「確かに、御心配でしょう」
「ええ、…あの、もし皆の事で知ることが有ったら教えては頂けませんか?」

私の言葉に口籠る彼に、畳みかける様に皆が元気か、どこに居るかだけでもいいんです…!と言葉を詰まらせるように呟くと、そうですね、それくらいなら…と自分を納得させるかのように頷きながら協力してくれることになった。
ありがとうございます!と笑いながら内心、え、そんな簡単でいいん?と思ったのは内緒です。お父さんお母さん、演技の上手い子に生んでくれてありがとう!

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