神隠しの少女 | ナノ






頭の中で悶々と考えていると、足元がぐらりと揺れた。DIOが私の方に体重を掛けたのだ。先程言った様に私は足場の悪いベッドの上に立っているわけで。そんな状況で上半身だけとはいえDIOの体重を受け止められる筈もない。いや、しっかりした所でも受け止められるか分からないけど。まあ、結論として…そのままベッドに倒れ込んだ。

「DIOさん重い」

私のお腹から爪先に掛けて丸々DIOの下に敷かれている。もちろんDIOもある程度は力んでくれているのだろうが、それでも重いものは重いし、私の力では抜け出せない。

「おーもーいー」
「っち、うるさいやつだ」

身体を横にずらしたDIOにホッとしたのもつかの間。腰に手がかかったかと思うと、ぐるりと横を向くように身体を引かれる。

「うえっ!?」
「なんだその声は」

くつくつと笑うDIO。しかしこちらは笑ってられない。なんせ近い。いや、抱きついた私の言う事ではないかも知れないが、DIOは顔を私の腹部に埋めて、手は相変わらず腰に回されている。現状を認識していく内に顔が熱くなってきた。顔が見えないのは不幸中の幸いだったかもしれない。
落ち着こうと数回深呼吸をする。その間DIOはピクリとも動かなかった。少しばかり冷静になってDIOに目を向ける。絹糸の様な痛みのない綺麗な髪が蝋燭の火を跳ね返すように輝いている。身長的にいつも見上げるばかりだった私には、DIOの頭頂部を眺めるというのはとても新鮮だ。固まっていた腕を動かして、DIOの頭に手を乗せる。そのまま撫でればなんと手触りのいい髪だろうか。普段気にして手入れをするタイプではないし、きっと何をせずともこの美しさなのだろう。正直悔しいです。

さらさらと指の間を撫でる髪の感触を気に行って延々と撫でる。しかし、DIOはそれに対しても何も言わなかった。…なんだろうこの既視感。撫でながら思考を働かせて気付く。あれだ、気位の高い猫が極まれに撫でろ、って腹を出した様な状況だこれ。
そう思ってしまったらもう最後、笑いがこみ上げるのを堪え切れない。流石に声を出して笑うのは憚られたので、肩を揺らす程度だったが、くっついているDIOには当然バレるわけで。

「何を笑っている」
「い、いや。…可愛いなあ、と」

隠す気にもなれず素直に思った事を言えば、DIOの腕に力が込められた。しかし、痛いという程ではないので怒っているわけではない、と勝手に判断する。

「DIO」
「なんだ」
「DIO」
「何だと聞いている」
「DIO」

DIOからの問いかけに応えずに名前を繰り返すと、呆れたように一息ついてからぐりぐりと更にお腹に頭を埋める様な仕草をする。それがあまりにも愛おしく感じられて、上半身を動かしてDIOの頭を抱きしめた。

「茉莉香」
「んー?」
「茉莉香」
「はいはい、何ですか」
「茉莉香」
「はい、ここに茉莉香ちゃんは居りますよー」

先程私がしたように私の名前を繰り返し呼ぶ。何度も呼ばれるそれに適当に相槌をしながらゆるゆると頭を撫で続ける。その合間にDIOの名前を呼んでみた。

「DIO」
「なんだ」
「今日は随分と甘えん坊だねえ」
「…今日の餌に志願するなら聞き入れてやらんこともないぞ」
「え、それは断固拒否するわ」
「ふん」
「まあ、普段甘やかして貰ってるし、今日は甘やかしてあげましょう」
「なら黙ってそのまま続けていろ」

その言葉に一瞬キョトンとしてしまう。続けろ、というのは頭を撫でる行為か。呼ばれる名前への返事か。…きっとそのどちらもなんだろう。
緩む顔を抑えもせずに抱きしめる手の力を増せば、DIOの手の力も強くなった。ああ、なんと穏やかで幸せな時間だろうか。


我が愛しの甘えん坊
構ってちゃんな君も可愛いよ!

→おまけ

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