神隠しの少女 | ナノ






私の嗚咽がようやく収まってきたころ。ディアボロは宙を仰ぐようにして私の頭に肩を乗せた。

「もしも、どうしても逃げたくなったらここに来い」
「…」
「お前が、何も見たくないと望むならそれを叶えてやる」
「うん…」
「まあ、どうせお前は来ないだろうがな。…頑固で言う事を聞かない奴だから」
「それじゃあ、私が凄い我儘みたいじゃない」
「違うのか?」
「…違わない、ね」

私の腕を外してディアボロが振り返る。困った奴だ、そんな呆れた風にため息をつくくせに、その顔は優しさを帯びていて。
彼を悪魔だとか言う奴の目は節穴なんじゃないかな、なんて思った。そして同時にこんな風に微笑む彼を見られるのは、私だけなんだなんて場違いな優越感を感じてみたり。

「やれるだけやってこい」
「…うん。言われなくても好き勝手やってくる」
「ああ、それでいい」

ポンポンと頭を叩く手に目を閉じる。舌の根も乾かないうちにこの優しさに溺れて居たいなんて思ってしまう。…だけど、それは叶わない夢だ。

「次来る時は、全部終わってからにするよ。…ディアボロに甘えちゃいそうだから」
「今は甘えてないのか?」
「…」
「冗談だ。…頑張れよ」
「…うん」

ディアボロから離れて、勢いよく手を上げる。

「不肖空条茉莉香、頑張ってきます!」
「ああ」

優しい夢の時間は終わりだ。
これから先に待つ現実はきっと辛くて苦しい。でも、その先にはきっとまた幸せな時間が待っている。そう言い聞かせながら私はその場を後にした。

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