神隠しの少女 | ナノ






「…あー、まあ何もないって訳じゃあないだろ?」
「んー、まあ…」

ただ久しぶりに顔を見に来たと言っても良かった。本当のことを言ってもディアボロを困らせるだけだし。でも、やっぱり弱い私は一人で抱え込めない訳で。久方ぶりに会ったお兄ちゃんに甘えさせて頂こう。頭の中でそんな言い訳をしながら、DIOの事やこれから始まることについてぽつぽつと喋った。

「…お前たまに何処に居るか分からなくなると思ったらエジプトに居たのか。しかも吸血鬼と」
「まあねー」
「で、お前の行ったクウジョー?とか言う家と因縁があったと」
「その通りでございます」
「…やはり、あの時お前を引き留めておけばよかった」

私の髪を梳くように撫でるディアボロの声音は後悔に塗れていた。

「…確かにそしたらこんなに悩まなかったかもね」
「ああ」
「でもさ、やっぱり行って良かったと思うんだよ。…だって、あの家で過ごした今までは本当に、幸せだったから」
「…そうか」
「うん」

そっと唇を噛みしめる。そう、後悔なんてしてない、しない。自分で決めた事だから、やり遂げると誓ったから。そう思っても視界は滲んで行く。なんだか無性に腹が立った。それは自分の不甲斐なさに対してでもあったし、運命とやらの理不尽さにでもあった。顔の下に敷いていたクッションを手にとってディアボロにぶつける。まさに八つ当たりだ。しかし、彼は何も言わずにぶつけられながら私の頭を撫で続けた。

しばらくして漸く気が済んだ私はやっと顔を上げた。そんな私をディアボロは少し苦笑しながら見降ろしている。…ああ、昔イタリアに居る頃我儘を言う私を彼はいつもこうして見守っていてくれたんだよな、なんて思いだした。
ディアボロの服の裾を引っ張れば、彼は抵抗すること無く床に座る。…やらせた私の言う事ではないが服が汚れるんじゃないだろうか。

「反対向いて」
「分かった」

ソファーに寄り掛かるように座りなおしたディアボロに、上半身を乗り出して抱きついた。伸びた髪が頬を掠める。

「…身長はあまり変わらないのに重くなったな」
「だから伸びてるって。ていうか失礼すぎるよそれ」

私の文句を鼻で笑うディアボロの喉を絞めれば、当たり前だがやめろと制された。力を抜いて凭れる私の頭を肩越しに撫で始める。…頭撫でるの好きだよなあ。いや、私が撫でられるのが好きでよく強請っていたから癖になったのかもしれないが。

「…やっぱりさ、結構辛いのよ」
「ああ」
「皆がただ笑っててくれればいい、って思ってるだけなのにさ。…そんな簡単そうなことが凄い無理難題で」
「ああ」
「出来る事なら、目を逸らして、耳を塞いで、逃げたい」
「ああ」
「でもさ、それじゃ後悔するのなんて目に見えててさ」

抱きつく腕に力が籠る。溢れていく涙が止められない。こぼれた涙がディアボロの服に浸みていく。彼は、どんな顔をしているんだろうか。

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