神隠しの少女 | ナノ






大方の調理を終えたのは2時少し前だった。眠れなかったからとはいえ早く作りすぎた感は正直否めない。とりあえず椅子に座って虚空を仰ぐ事にした。ああ、胃が痛い。
いつもならこういう時は大概DIOの所に行って大いに愚痴り、ラバーソールあたりと馬鹿をやってストレスを発散してきたが、この状況ではそうは出来ない。となれば、一人で抱え込むしかないか。そう思いはするが、やはり一人静寂の中に居るとガリガリと精神力を削られてしまう。辛そうに歪んだ承太郎達の顔が瞼の裏に浮かんでは消えていった。
こんな時、頼れる人はまだ居る。そう、居るには居るのだが。

「行ってもいいもんかねえ…」

ぼんやりと呟いた言葉は宙に霧散していく。そしてまた訪れる静けさに一人眉をしかめた。
…彼の所に連絡もせずに行っていいのか分からない。もしタイミングが悪ければ、かなり迷惑を掛けてしまう。しかし、きっと彼は何だかんだ言いながら許してくれるのではないか、なんて甘い考えも浮かんできて。結局その甘い誘惑を退ける事は出来なかった。

つっかけを履いて庭に降りる。空には数時間前と変わらず満月が輝いていた。…向こうはどんな形の月が浮かんでいるのだろうか。そんな事を考えながら彼の顔を思い浮かべ。肩に置かれた彼女の手に導かれるまま、私は空条家の庭から消えうせた。

目の前には殺風景な部屋が広がっていて、どうやら彼を困らせるような状況には鉢合わせずに済んだようだ。そしてそんな部屋の窓際で机に向かっている青年が勢いよく顔を上げる。警戒心に溢れていた目が驚愕に染まるのを見ながらそっと微笑んだ。ああ、少しばかり老けたね君も。

「久しぶり、…ディアボロ」

私の言葉に青年―ディアボロは丸く開いていた目を漸く細めた。

「随分と急な訪問だな」
「出会いは何時も唐突に訪れるものさ」

久しぶりに耳にするイタリア語が少し擽ったく感じる。発音は大丈夫だろうか?そんな事を考えながら部屋を見渡している私にディアボロが近付いてきた。

「…大きくなった、な?」
「…なんで疑問形なのかな?」
「いや、…想像していたよりは小さいままだな、と」
「…チビで悪かったね!君は思ってたより老けてたよバーカ!」

私の言葉にディアボロの口元が引きつる。しかし、私だって同じくらい傷付いたのだから知ったことではない。ていうかね、この世界の子皆発育が良すぎるんだよ!私の身長は普通…より少々小さいだけだ!

「…全く、減らず口は変わらないな」
「これが持ち味だからねっ」

ため息をつくディアボロを尻目に横に合ったソファーに飛び込む。埃が立つだろう、とお小言が聞こえたがスルーの方向で行かせて頂きます。むしろ足をバタバタと動かして埃を立ててみた。てかこのソファーいいな。このサイズならこのまま寝れそうだ。…断じて私がちっさい訳ではない。

「で、どうしたんだ」
「…どうしたって何がー?」

ソファーに顔を埋めたまましらばっくれる私にディアボロはもう一度大きなため息をついた。そして頭に手を乗せられる。…ああ、ディアボロに頭撫でられるのも久々だなあ。

「何か無ければお前がなんの連絡もせずに来るとは思えない」
「連絡も何もお兄さん直ぐ住所変わるじゃん」

私の言い訳に言葉に詰まったようだ。…そうだよね、言って気付いたけどまだしばらく事前連絡が出来るとは思えないわこいつ。

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