神隠しの少女 | ナノ






茉莉香が話した内容は、衝撃的なものだった。彼女がスタンド使いである事はあの館に居た時点でうすうす気付いていたが、まさかジョースター家とDIOの因縁とやらが有ることを知っていたとは。その上こうなるかもしれないと予測していたというのだ。
それを聞いた承太郎が茉莉香に掴みかかった時、ぼくはどうしたらいいか分からなかった。茉莉香は訥々と話し続けた。ずっと、祈っていたと。少しづつ言葉に熱が籠る。顔が歪む。そんな茉莉香をぼくはただ見つめることしかできなかった。

家族が欲しかった、親友と家族どちらも選べない。涙を滲ませ声を震わせながらそう叫ぶ彼女を誰が責められるだろうか。
ぼくもずっと友達が欲しかった。スタンドが居るから問題ないなんて肩肘を張っていたけれど、ずっと、一緒に話して笑ってくれる、そんな友達が欲しかった。
そしてあの夜。茉莉香と出会って、友達になれて本当に嬉しかった。茉莉香がこの家に来た時、きっとあの時のぼくの何倍も嬉しかったに違いない。その喜びを、幸せを求めた彼女をどうやったら責められると言うのか。選択を誤ったと言えるのか。

聞いてるこちらが胸を引き裂かれるような叫びが収まり、茉莉香は席を立ちコーヒーを淹れ始めた。歳の割に落ち着いた振る舞いをする背景が先程の言葉から見える気がして少し辛い。


一息入れた後、今後のぼく達の方針について話し合った。今日中にカイロに旅立つかと思ったが、茉莉香のアドバイスにより明日の早朝に出発することになった。一度家に帰ろうかとも思ったが、なんと説明すればいいか分からずに結局もう一日空条家に泊らせてもらうことになった。

「茉莉香」
「典明君。どうしたの?」

名前を呼ばれて振り向いた茉莉香の目はまだ少し赤みが残っていた。しかし、口元は笑みを浮かべていて、少しばかり安堵する。

「何か、手伝える事はないかな?」
「…じゃあ、お皿出したりしてもらってもいいかな?」
「ああ」

茉莉香の指示に従って皿を出す。その声と食器の擦れる音、くつくつと鍋が煮える音だけが響く。そんな中意を決して口を開いた。

「…ごめん」
「なにが?」
「ぼくがあんなことを言わなければ、君に辛い思いはさせなかった」

あの時、DIOの館で会ったなんて言わなければ。泣かせることもなかっただろう。

「典明君は何も悪くないよ。遅かれ早かれ言わなきゃいけないことだったんだから」
「…でも」
「それに、知ってたのに言わなかったなんて分かったら典明君も怒られちゃってたよ?典明君嘘つくの下手そうだし」

からかう様な声音でそう言う茉莉香に心が痛む。気を、使わせているのだろう。こんな年下の少女に気遣われるなんて情けない。

「…それに、典明君が家に来たの知ってたから。昨日の内に話さなきゃいけないって分かってて。なのにあんな風に泣いちゃうなんてねー。びっくりさせちゃったでしょ?」
「…」
「ごめんね。これからDIO倒しに行くっていうのに、あんなこと聞かされても困っちゃうよね」
「茉莉香」
「…なに?」
「無理に笑わなくても、いいと思うよ」

上手く慰める事も出来ない自分に嫌気がさしながらも、そう言えば茉莉香は目を見開いた後、困ったように笑った。そんな顔が見てられなくて、頭を撫でる。それに従う様に俯きながら、…ありがとう、なんて言う茉莉香が酷く儚く見えた。
ぼくの言う事ではないけれど、この子が幸せになれればいいと、そう思った。

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