神隠しの少女 | ナノ






結局あのまま徹夜して学校へ向かった。内容が分かり切っているものだけに眠気が酷い。でも先生が怖いのでなんとか寝ずに耐えきった。…そのせいで今上瞼と下瞼が求愛し合ってるけど。

「けど、寝ちゃだめだ」

そう、母の形見を探しに行くためにDIOの館に行かなくては。色々と考えたが、彼が寝ている昼の間に取りに行くべきだ。まだワールドが居ないとはいえ、彼と万が一敵対した時に勝てる自信はない。
欠伸を一つ噛み殺して、昨日行った館を思い浮かべる。彼女が後ろに表れたのを感じて、行きたいと願った瞬間。視界が途絶えた。


次に目に映ったものは昨日見た部屋…だと思う。遮光カーテンが引かれているのか昨日の晩よりも視界が悪い。これは目が慣れるまでは動かない方が賢明だと思い、出来る限り気配を消した。――つもりだったのだが。
いきなり後ろから引っ張られる。ボスリと体が受け止められた。恐る恐る上を見上げれば、DIOがこちらを見下ろしている。

「な、んで」

イタリアとエジプトの時差は1時間程度のはず。まだ日の昇っているこの時間にこの人が起きているはずはないのに。

「何でとは不思議なことを言う。君が自分で来たのだろう」

その言葉の響きと眼にゾクリと寒気が走る。これは、この状況はまずい。フラッシュバックの様に花京院とDIOの邂逅を思い出す。思わずスタンドを繰り出してDIOと距離を取った。

「ほう、昨日よりはスタンドを使いこなせているようだな」

面白そうに笑うDIOに鳥肌が止まない。捕食者に狙われた獲物はきっとこういう心境なのだろう。DIOから目を離さずに後ずさる。しかし、それもDIOが強く一歩踏み出すだけで距離が潰され捕まってしまう。

「さて、一体何をしに来たのかな」
「ネッ、クレス、を」
「ネックレス?」
「ええ、昨日ネックレスを忘れていません、でしたか」

一目散に逃げてしまいたいが、それでは何のために来たのか分からない。いざとなれば逃げられるはずだと覚悟を決める。

「ふむ…どんなものなんだい?」
「シンプルなデザインのものです。…母の、形見なんです」
「母の?」
「はい」

なんとか冷静になってきた。大丈夫、大丈夫だ。

「そう言えば見た気もするな」
「ほ、本当ですか!」

恐怖も忘れてDIOを見上げる。

「だが、どこに置いたものだったかな」

その言葉に思わず怒りがこみ上げる。なんなんだ。痴呆ですかこの野郎。

「まあ、後で探してあげよう」
「後で!?」

何呑気なこと言ってるんだこの吸血鬼野郎!ああ、もう恐怖よりも怒りの方が大きく上回ってるのが自分でもわかる。

「私は眠いんだ」
「…は?」
「君が付き合ってくれるのならネックレスは返す。さあ、どうする?」

その言い方で気付く。こいつ…どこにネックレスが有るのか知ってるな!?だが、ただで返すつもりは毛頭ないということだろう。…どうする私。もしかしたら肉の芽埋めこまれたり、最悪死ぬかもしれない。ああ、でもお母さんのネックレスがかかってるんだよ、畜生め!何かされそうになったら閉じ込めてやる!

「…分かりました」

そう言った途端DIOに持ち上げられる。いきなりの事に小さな悲鳴をあげたら笑われた。…糞ムカつくなおい。


ベッドの上に落とされたかと思えば、DIOに抱きかかえられるような形で抑え込まれる。

「なっ!」
「うるさいぞ」

何度か文句を言おうと口を開くが、結局声になることはなかった。…どうせチキンさ!



DIOは何も言わず、胸板に顔を押しつけられている私には、起きているのかどうかも分からない。…というか、ヤバい。かなりヤバい。肌触りのいいシーツとDIOの低めの体温が酷く心地よくて、寝不足の私に睡魔が襲いかかる。寝てはいけないと思っても体がそれについていかない。
少しづつ途切れて行く意識を手繰り寄せきれず、私は眠りに落ちた。

[ 2/4 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]