神隠しの少女 | ナノ
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「#幼馴染」のBL小説を読む
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「そろそろ寝た方がいいんじゃない?明日早いよ」
「そうだな。…お前はどうすんだ」
「んー…とりあえず明日の君達の朝ごはんにおむすび握るからその準備してから寝るよ」
「無理すんなよ」
「大丈夫だって。…お休み、承太郎」
「ああ…お休み」

私の頭を一撫でして立ち去る承太郎を見送る。階段を上る足音を聞きながらそっと口を開いた。

「で、アヴドゥルさんは如何なさいましたか」
「…気付いていたのか」
「DIOの館でよくかくれんぼを開催していたもので。彼ら基本的に本職ですから気配消すの上手いんですよ。それを必死に探してたせいかいつの間にか気配読むの上手くなりましてね」

背後に立つ彼を振り向きもせずに聞かれていない事までべらべらと喋る私は、自分が思っている以上に緊張しているのだろう。アヴドゥルさんに対する苦手意識はいまだに胸に燻ぶっている。

「…ご用件は?」
「君と少し話がしたい」

その言葉に漸く彼の方を向く。合わせられた目はやはりこちらを見通すような色をしていた。

「君の目的は一体何なんだ」
「…言ったでしょう?ホリィママもDIOも、承太郎やあなた達も。誰も失わない、失わせない。それが私の目的です」

私の言葉に何も言わないアヴドゥルさんから目を逸らしつっかけを履いて庭に下りる。風が、冷たい。

「…そうですね。それともう一つあります」
「…もう一つ?」
「…ええ」

こういうタイプは、しつこい。先程の答えでは満足せずに胸中では色々と考える、そんな人だ。別に何を考えられても構わないが…それで承太郎やジョセフおじいちゃん達とギクシャクされては困る。それに、基本的には面倒見のいい人なのだから協力してくれるかも知れない。

「私はね、承太郎に、あなた達に人を殺して欲しくないんです」

私とアヴドゥルさんの間に冷たい風が通り抜ける。

「承太郎って優しいんですよ。昔、誰がどう見ても助かりっこない猫を拾ってきて、一生懸命看病したことが有るんです。…結局その子は死んでしまいましたけど。その時、泣いたんです、承太郎が。私やホリィママには分からないようにこっそりとですけど」

そう、あの子は優しい。優しすぎる程、優しい。だから私は原作を捻じ曲げてでもタワー・オブ・グレーとの戦いを避けさせた。彼に手を下すのは典明君だ。しかし、仲間が"自分達"が殺したと承太郎が思わないと誰が言いきれるだろうか。彼は優しくも強く真っ直ぐだから、それを仕方ないと守るべき人の為だと呑み込めるかもしれない。だけれど、そのことで傷付かない訳でも忘れられるわけでもない。…私とは、違うのだ。
私は彼の心も守りたかった。無理難題だろうと、奢った考えだろうと。彼に重荷を背負わせたくはなかったのだ。

「私の目的はねアヴドゥルさん。誰も死なず、皆で笑い合えるようにすることなんです」

そこでやっと私はもう一度振り返り、今度こそしっかりと目を合わせる。

「夢物語だと人は言うかもしれない。そんな都合のいい結末は現実にはないと笑うかもしれない。でも、私は本気でそんな都合のいい、夢物語を叶える気なんです」

まあ、実際は全て救えるなんて思っていない。例えばJ・ガイル。彼はポルナレフに殺されるべきで、それを止める気なんてさらさらない。何故なら、彼の場合大義名分が有る。大切な仲間の仇打ちだから、討たれるべきなのだと思える。それに承太郎の目の前で息絶えるわけではない。…そこまで考えて笑い出しそうになる。ああ、私の本心はこうもエゴイスティックなのだ。
大切な大切な彼が、彼らが傷付かなければ他人はどうでもいい。死のうが苦しもうが絶望しようが、関係ない。ただただ、私は守りたいだけなのだ、自分の大切なものを。
ここにDIOが居て、私の考えを聞いたら一緒に笑っただろう。何を今更、と。そうだ、今更だ。空条の家に来て、暖かいもの達に囲まれて。幸せだった、とても幸せだった。だけれど。変わらない、変われない。この世界に来る前の様に、祖母が殺される前の様には戻れない。他人の痛みに共感など出来ない、他人の為に涙など流せない。―真っ白には戻れない。
大声で笑いたいのを抑えて、にこりと笑う。愛らしく、ただ純粋に家族を、友を想う少女として。

「だからアヴドゥルさん、承太郎を皆を頼みます」
「…ああ、頼まれよう」
「あ、承太郎には今の話秘密にしてくださいね?大きなお世話だと言われかねないので」
「分かった、それも覚えておこう」

そう言って微笑むアヴドゥルさんにまた背を向ける。作った笑顔は今にも壊れてしまいそうだから。
どこかでチクリと胸が痛んだ。だがきっとこれすら見捨てる誰かさん達への痛みではなく、変わってしまった自分への憐みなのだろうと、そう思った。
見上げた月はやはり美しく、何も言わずに輝いていた。

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