神隠しの少女 | ナノ






あの後、財団の人に聞いたところ今日中に出る船はなく、明日早朝に香港へ向かう船に乗ることが決定した。香港―ポルナレフと出会う筈の地だ。予定では着くのは3日後…。
縁側で一人空を見ながらこれで良かったのかと自分に問いかける。タワー・オブ・グレーとの対戦を避け直接香港に行けたのは運が良かったとしか言いようがない。一歩間違えれば原作と大きく食い違ったかも知れない行動だ。万全を期すなら飛行機でカイロに向かわせるべきだった。しかし、私にはそれを選べない理由がある―。

「茉莉香」
「…承太郎」

声を掛けられ振り向いた先には承太郎が立っていた。お互いの間に沈黙が降りる。承太郎の顔にはどこか躊躇いの様なものが浮かんでいた。

「座ったら?ココアで良ければ飲むものもあるし」

脇に置いていた魔法瓶を掲げて笑いかける。承太郎は何も言わずに隣に座った。

「…そんな甘いもんが飲めるかよ」
「ココア美味しいのになあ」

二人並んで空を見上げる。先程までかかっていた雲は消え、真ん丸な月が縁側を照らしていた。二人とも口を閉ざしそれを見つめる。

「…なあ」
「なに?」
「一つ、聞いてもいいか」

何を聞かれるのだろうか。少し怖い気もしたが、今は素直に聞いてみようと思った。

「…いいよ」
「さっきの話だが…お前のばあさんが殺されたというのは本当か」

思いもかけない質問に承太郎の顔を見れば、苦々しい顔をしていた。なんだかんだ気を配る承太郎のことだ、私に嫌な思いをさせるとでも思ったのかもしれない。私としてはDIOに関するものだと思っていたのでむしろ肩透かしをくらった様な気分なのだが。

「…うん。本当だよ」
「そうか…」

今まで承太郎達には事故、と言っていた。ジョセフおじいちゃんは知っているかもしれないが面と向かって尋ねられた事はない。きっと気を使っててくれたんだろうな。

「辛かっただろ」

ポン、と頭に手を置かれて曖昧に微笑む。確かに今思い出しても胸が痛む出来事には違いない。しかし、あの出来事がなければ私は今ここには居ないし、きっと自分の大切なものを守る為に手段は選ばない、と言える程色々と吹っ切れはしなかっただろう。

「…もう、お前から家族を奪わせねえ。それが例え…お前が大切に思う奴だろうとな」
「…なんて返せばいいか、困るね」

ありがとう、とは言えない。止めてくれとも言えない。ただその気持ちはとても、嬉しい。

「ねえ、承太郎」
「ん?」
「もし、さ…ホリィママがDIOを倒さなくても助かるとしたら…。それでも、DIOを」

そこで切って承太郎を見上げる。殺すのかとは聞けなかった。頷かれたらそれこそどんな顔をすればいいのか分からない。

「…さあな。そうなってみなきゃわからねーだろ」
「そ、っか」
「とりあえず一発ぶん殴ってから決めるだろーぜ」

まあ、お前が泣くのはおれもジジイも見たくねーよ。そう言って小さく笑う承太郎に漸く笑い返すことが出来た。

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