神隠しの少女 | ナノ






…寝付けない。
まあ、それも仕方がないか。前世とやらの記憶を持ったまま過ぎて行った8年。それ自体は稀有な事例とはいえ、まま報告が有ることだ。そこまで深く考えたこともなかった。もちろん時代が遡っているということは不思議だったが、デジャヴを感じる人間って私と同じような立場なんだろう、なんて適当に考えていた。
しかし、発現したスタンド、DIO達の存在…。私は時を遡って生まれたわけではなく、ジョジョの世界に生まれてしまったのだ。

「トリップ、と言うやつか…」

前世で培ったオタ知識がこんなことで役に立つとはね…。思わず乾いた笑いが出てしまう。全く、喜ぶべきなのか悲しむべきなのか悩んじまうね!
とにかく寝付けないものは寝付けないし…と割り切って机に向かう。ここがジョジョの世界と分かったからには、私が覚えている出来事を整理する必要がある。なんせ今でさえジョジョ離れして8年近い。大体のあらすじは覚えているものの細かな所は曖昧極まりない。
…ファンとしては現実にキャラに会えるこの状況に喜ぶべきかもしれない。しかし、実際に来てみた身としては…。

「会いたくなかったよなあ…」

だって、ヘタしたら死ぬんだぞ。まだ遠くから見かけるとか、ほぼ無関係の立場なら私だって喜んでた。しかし、実際にスタンドが使えて、DIOと接触して。そしてお兄ちゃんと慕っていた少年は多分5部のラスボスだ。

「間違いじゃ、ないよね」

サルディニア島で教会に住むディアボロと言う名の少年。…疑う余地もなく彼なのだろう。将来悪魔と言われるパッショーネのボスだ。

「むしろそこで気付いとけって話か」

単なる偶然だと思っていた。…というか、そう思いたかったのかもしれない。こうしてトリップしたのだと現実に叩きつけられて初めて分かる。…怖い。とても怖い。
それはもちろんこの世界の危うさを知っているからというのもある。だが、それ以上に。

「私は、未来を知っている…」

彼らが、どんな道を辿り、何を得て、…何を喪うのか。それは、私はそれらを変えられるということだ。前世じゃこの世界に入れたら花京院助けるのに!とか、DIOが好き過ぎて負けさせたくない!とか簡単に言えた。なぜならそれは不可能なことだったからだ。私はこの世界に入れないはずだったし、世界は決まった筋道を通るはずだった。だが、今は入れてしまっているし、変えられる。
本音を言えば変えてしまいたい。凄まじい誘惑に駆られる。しかし、それは許されるのか。

「でも、助けても助けなくても怖いよね」

助ければこの世界そのものを壊してしまうのかもしれない。と言って助けなければ、きっと罪悪感で潰れてしまう。気付かなければ、そんなこと知らずにいられた。でも、気付いてしまった今、変えないということは彼らの命を見捨てると言うことで。
…せめて気付いても会ったりしなければな。そうしたら、テレビの向こうで見る出来事のように、思えたかもしれないのに。

「なんて考えても仕方ないか…」

取りとめのない思考を止めるために、がしがしと頭を書いてノートを開く。とにかく覚えている限りの出来事を時系列で書き出さねば。

「…3部の開始っていつだ」

もう20世紀だしDIOはカイロに居るんだから3部以前なのは確実だが…。

「4部から逆算するか」

4部の開始は1999年と覚えやすいものだったお陰でそこから辿ることが出来そうだ。確かあの時承太郎は28歳だった筈だ。こんな28歳なら一夜の過ちでも抱かれたいと思ってたし。で、3部の時が17だか18…。ということは、1988年か1989年に3部開始か。

「私は…多分12歳か」

約3年後、ね。で、4部が1999年、5部は…康一君が高校生だった筈から大体2000年前後。4部と同じ年ってこたないから2000年か2001年かね。
そんな風にある程度思い出せることを書いている内に空が白んできた。

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