「祈ってようが、なかろうが!今こうしておふくろはDIOの野郎のせいで苦しんでんだ!」
「分かってるよ!そんなこと、分かってる!」
「じゃあこんな状況でもテメーは!選べねえって言うのか!」
「…言うよ、当たり前じゃん!母親と親友天秤に掛けて、簡単にこっち、なんて言えるんだったら!言えるんだったら、祈ったり、しないよ…!」
視界が滲むのを唇を噛んで堪える。承太郎の手首を掴んだ手が震える。ああ、こうなるのは分かってたのに。頭では冷静にならなきゃいけないって分かってるのに。心がそれを許してくれない。
「…こうなるかも知れないって、ジョセフおじいちゃんが来た時からずっと怯えてた。それなら空条の家に行かない方がいいって思った。でも、家族が、欲しかったんだよ…!」
声が震える。目の前の光景が歪んで見えない。泣くな、泣くな!泣いてたって仕方ない。そう思うのに。
「お父さんとお母さんが死んで!おばあちゃんは私の前で殺されて!おじいちゃんは病気で三ヵ月ももたないって言われて!…おじいちゃんの病院から家に帰ると、真っ暗なんだよ。ただいまって言っても、誰もお帰りって言ってくれなくって。朝起きても、ご飯食べても、寝る時も。ずっと、ずっと一人で居たんだよ…!でも、ジョセフおじいちゃんが来て、起きたらおはようって言ってくれて!一緒にご飯食べたりしてさ、承太郎やホリィママの話聞いて、私もその中に入れたら、って願って!それが叶って!幸せ、だった。このままずっと続けば、いいって…!」
もう、その後は言葉にならなかった。ずっとずっとこのまま幸せが続けばいいって願ってた。承太郎とホリィママと、たまに顔を出す貞夫パパとジョセフおじいちゃんにスージーおばあちゃん。いってらっしゃい、行ってきます。おかえり、ただいま。おはよう…そんな平凡だけど幸せな言葉が、家族が愛しくて、守りたくて。
ボロボロと頬を涙が伝う。しゃくりあげて泣く私はなんて脆いんだろうか。
ああ、それでも、それほど愛しくても。私は同じように彼を、彼らを愛していた。
場に沈黙が降り、私の嗚咽だけが響いていた。涙が収まり、冷静になるにつれ先程までの自分の言動に後悔が募る。あんなこと、言う筈じゃなかった。あんな風に言ったら、優しい彼らはもう私を責められないだろう。責めてほしい訳じゃないけれど、それで気が済むのなら私は責められるべきだった。だって私は彼らに隠し続けていたんだから。
「…泣くな」
承太郎が学ランの袖で私の顔を拭く。その手付きがいつもと同じように優しいものだから、ついまた涙が出そうになる。
「ごめん」
「いや、…おれも怒鳴って悪かったな」
「…ん。皆さんも、すみませんでした」
気を落ち着ける為にコーヒーを入れる。ああ、後でばら撒いちゃったもの片さなきゃな…。席に戻った私にアヴドゥルさんが聞きづらそうな顔をしながら口を開く。
「…それで茉莉香君は、どうするんだ」
「…先程言ったように私にはホリィママもDIOも選べません。だから、私は誰も、失わない方法を探します」
「あると、思っているのか」
ホリィママを救う手筈は一応整っている。しかし、それは今言うべきではない。もしも私の筋書き通りに行かなかったら、彼らの希望を一つ打ち砕くことになってしまう。
「…分かりません。でも、それしか私には出来ませんから」
「そうか…」
誰も口を開かず、コーヒーを啜る音だけが台所にしていた。
[ 2/3 ][*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]