神隠しの少女 | ナノ






朝起きると承太郎はまだ寝ていた。一声かけて布団から出て自分の部屋に戻る。着替えて顔を洗い、台所に向かうと既にホリィママが居た。…その顔色が優れないように見えるのは、きっと勘違いでは、ない。

「あら、茉莉香ちゃん。おはよう」
「おはよう。…体調悪いの?」
「ううん、そんなことないわよ!昨日も承太郎にそう言われたんだけど…。元気げん、き」

ふらりと、ホリィママの身体が揺れた。支えようと手を伸ばしたが、力足りず周りの物を巻き込みながら二人床に倒れてしまう。打った腕が痛んだが、それ以上にホリィママの辛そうな呼吸と手に感じる熱が、痛い。
音を聞きつけたアヴドゥルさんが駆けつけてきて目を見開く。そこに映る私はなんとも情けない顔をしていた。
アヴドゥルさんが失礼、と言ってホリィママの服をめくる。背中には、スタンドが、根をはって、いて。アヴドゥルさんが何か言っているが、全て耳を素通りしていく。分かっていた。想像していた出来事だった。なのに、私は酷く動揺していて。死ぬ、とアヴドゥルさんが呟いた言葉だけが、鮮明に聞こえた。

「……ホ…リィ」

ジョセフおじいちゃんの声に振り向くと、承太郎と二人悲痛な面持ちで立っていた。それを見て少しばかり冷静になる。そうだ、実の親子であるこの二人は私よりも辛い筈だ。私が悲嘆に暮れていてどうする。
ジョセフおじいちゃんが承太郎に掴みかかる。そうしなければ抑えきれない感情が、渦巻いている。その気持ちは痛い程分かる。しかし、ホリィママをこのまま床に寝かせておくことは出来ない。

「ジョセフ、おじいちゃん…」
「茉莉香…」
「まず、ホリィママを布団に寝かせてあげよう?ここじゃ、もっと体調悪くなっちゃうよ…」
「そう、じゃな…」

台所を出ようとした時、典明君が現れて。私を見て目を見開いた。だけれど、今は何も言えない。固まる彼の横を通り過ぎて、和室へと向かった。

布団を敷き、ホリィママを寝かせて承太郎と二人台所に戻る。会話は一切なかった。台所には深刻な顔をしたジョセフおじいちゃんとアヴドゥルさん。そして、何か言いたげにこちらを見る典明君がいた。私と承太郎が座ると、ジョセフおじいちゃんが辛そうに話し出す。

「わしの最も恐れていたことがおこりよった…。ホリィには抵抗力がないんじゃあないかと思っておった。DIOの魂からの呪縛にさからえる力がないんじゃあないかと……」
「言え!対策を!」
「……ひとつ。DIOを見つけ出すことだ!DIOを殺してこの呪縛を解くのだ!それしかない!!」

ジョセフおじいちゃんの言葉に目を閉じる。分かっていたが、辛かった。
話は進み、承太郎のスター・プラチナでDIOがエジプトのカイロに居る事を突き止める。そして、典明君が口を開いた。

「やはりエジプトか……。わたしも脳に肉の芽をうめこまれたのは三ヵ月前!家族とエジプトナイルを旅行しているときDIOに出会った。…そして君ともだ、茉莉香」

典明君の言葉に三人の視線が私に集まったのが分かった。顔を上げ、目を開く。私を見る典明君の目は、射抜くような鋭さだ。

「わたしはDIOと会ったあの日、館に連れて行かれ君に会った。DIOは君のことを自分の客人であり友人だと言っていた。…教えてくれ。君は一体何者なんだ」
「…ジョセフおじいちゃん」
「な、なんじゃ」
「お医者さまが来るまであとどれくらい?」
「一時間、程だと思うが」
「そう、…なら話す時間は十分ある、ね」

この話が終わった時、彼らはどんな顔をしているのだろうか。

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