神隠しの少女 | ナノ






物珍しそうな顔で周りを見る花京院と目を合わせる。やはり虚ろな色をした瞳に心が痛んだ。

「えーっと、まずは名前聞かせてもらえますか」
「花京院典明と申します。…茉莉香様のことはDIO様から聞き及んでおります」
「そう、あの…茉莉香様は止めてくれませんか」
「…申し訳ありません。どのようにお呼びすればよろしいでしょうか」
「茉莉香でいいですよ?」
「すみませんが…そのような不躾な呼び方は…」

私の言葉に花京院は困った顔になる。多分DIOに同じように扱えとか言われてるんだろうなあ。とは言え、様付けはなんだか嫌だ。というか、肉の芽の効果をひしひしと感じてしまう。これが知りもしない誰かなら気にもしないんだけどなぁ。ぶっちゃけ適当にあしらうだろうし。しかし、花京院ではそうもいかない。

「うーん…。じゃあ、ひとつお願い来てもらえます?」
「なんなりとお申し付けください」
「友達になって?」

それを聞いてきょとんとする花京院は年齢に見合った幼さが有って少しホッとした。

「友達なら茉莉香って呼んでもいいでしょう?私も典明君って呼ぶし」
「ですが…」
「はい、敬語禁止ー。私ももう敬語使わないよ」

戸惑ったように俯く花京院、もとい典明君の手を握る。手が冷たいのは緊張からか、それとも他の要因か。

「ね?友達になろう?」
「…はい」

僅かに微笑んだ典明君は中々に可愛らしい。…この青年と少年の間の子ってとても魅力的だよね、なんて痴女チックなことを思ったのは一生の秘密である。

その後私と典明君は二人で色々な話をした。ゲームだったり本の話だったり。…スタンドの話だったり。典明君はこの歳までハイエロファントグリーンだけが本当に心を開ける友達だったらしい。…そりゃそうか。子どもでも、自分にしか見えない存在がおかしいなんて事は分かる。しかし、スタンドである以上ハイエロ(長いので勝手にこう略させて貰った)は消えずに側に居る。気味が悪いと忌避する周りと側に居るハイエロなら、そちらに心を開くのは仕方のない事だろう。

「じゃあさ、私が典明君の最初の女友達だねー」
「…そう、だね」

…こんな子どもの発言にも顔を赤くするって初心すぎるだろう可愛い。あれだ、承太郎みたいに女の子に囲まれたらどうなるかちょっと見てみたい気もする。

「まあでも、きっとこれから沢山友達が出来るよ」
「うん。DIO様の元にはスタンド使いが沢山いるしね」

そう言って少し恥ずかしそうに笑う典明君にちょっと苦笑してしまう。違うよ典明君。君にはもっと君にふさわしい、いいお友達が出来るんだよ。この館の皆には悪いが、基本的に青少年の健全な育成に相応しいとは言い難い面子だ。

「茉莉香も日本に住んでるんだよね」
「うん」
「じゃあ、帰ってもまた会えるかもしれないね。楽しみだなぁ」
「…そうだね。絶対に会えると思うよ」

私の言葉に嬉しそうに笑う典明君が手を出す。差し出された手に目をぱちくりとしてしまった。…ああ、握手か。普段あんまりしないから戸惑ってしまったよ…。
差し出された手を握り返す。先程とは違って暖かい手をしていた。

「約束だよ、また会おうね」
「うん、約束するよ」

…その時君は、今と同じように笑いかけてくれはしないだろうけど。少しばかり悲しくなりながら、握った手に力を込めた。

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