神隠しの少女 | ナノ






1987年―冬

クリスマスも近くなった頃、DIOと私は神妙な顔つきで向かい合っていた。

「でDIOさん、悪い話とはなんぞや」
「うむ…」

珍しくDIOの歯切れが悪い。なにか私に顔向け出来ない様な事をしたのだろうか。…テレンスさんと進めていたゲームのデータ消したとか?それなら先にテレンスさんにぼろくそにやられているだろうがそんな話は聞いていない。

「…ジョセフ・ジョースターにスタンドが発現したようだ」

DIOの言葉に僅かに目を見開く。そうか、もうそんな時期なのか。少しばかり目眩がするが大きく息を吸って目を閉じる。…うん、大丈夫。今更そんな事では取り乱したりはしない。肺の中の息を全て吐き出して目を開く。

「そう、教えてくれてありがとう」
「ああ」
「というか、君がそんなことで言い淀むと思ってなかったからむしろそっちが驚きだよ」
「それはどう言う意味だ」
「いや、君って爆弾発言ほどサラッと言ったりするから…」

ザ・ワールドが発現した時とかね!あの時は本当にポンと言われて驚き通り越してイラっとしたよ…。

「…そうか?」
「うん。まあ別にいいんだけどね」

さて、旅が始まるまでに後何度びっくり体験があるのかな。戦々恐々とすべきか、楽しみにすべきか悩むねー。

…そんな呑気に構えていた8か月前が懐かしい。今現在の私は驚き過ぎて呆然としている。

「…あー、もう一回聴きますが。これは一体どういう事でしょうか」
「…誕生日プレゼント?」
「わー、DIOの口からプレゼントとか違和感たっぷりー。たしかに今日は私の誕生日ですよ?でもプレゼントが人間っておかしいだろ!訳分からん!」

そう、私の目の前には一人の青年が立っている。そして、私はこの青年が誰か知っている。そうとも、良く知っている。奇抜な前髪にサクランボ型のピアス。生真面目そうな顔は今はどこか虚ろだ。…肉の芽を埋め込まれた花京院典明、その人だ。

「ああ、もうどこから文句つけたらいいのか分からない…!」
「何か文句が有るのか」
「あり過ぎて困ってるんだよお馬鹿!」

私に馬鹿呼ばわりされて非常に嫌そうな顔をしているDIOから花京院へと視線を移せば、にこりと微笑まれた。しかし、その笑顔が痛々しく見えるのは額に支配の呪縛が垣間見えるからだろうか。

「日本人がいたら喜ぶかと思ったのだがな…」
「いや、そりゃお兄さんの自己決定で居るならともかく、どう見ても肉の芽入ってるし!確実に強制じゃん!むしろ見てて可哀そうになるわ!」
「ならば…消すか?」

DIOの目が物騒な光を宿したのを見て、慌てて花京院を背中に隠す。なんせ今の花京院じゃ喜んで首を差し出しかねない。

「いや、いい!っていうかこのお兄さんどう見ても未成年なんだけど!?親は!?」
「書置きを残させた」
「それどう見ても外国での家出か誘拐だよ!明日の夜にはちゃんと親元に帰しなさい!」

面倒くさそうな顔をするDIOに言い含めてから花京院を連れて植物園に向かう。…子犬拾ってきた子どもを諭す親の気持ちが分かった気がする。

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