神隠しの少女 | ナノ






また眼を開くとどこか知らない場所なのかと不安になりながら目を開くとそこは想像よりもっとひどかった。
黒。視界はそれで埋め尽くされている。自分の手も見えない。何処かに立っているようにも感じられたけれど、それすら確かじゃない。
怖い。ここは一体どこなんだろう。何も見えない闇と言うのはこうも瞬時に人を苛むのか。

泣き喚きたくなるのを堪えて、爪が食い込むほど強く手を握る。その痛みで漸く少し冷静になった。とはいえ、やはり何も見えない闇の中だ。せめて光が有ればな、と思った瞬間今度は目の前が白く塗りつぶされた。


瞼を持ち上げれば、そこは白い空間に変わっていた。見回してもずっと白が続いているだけだったが、自分自身を見れるだけで大分ましだろう。と言うか、なぜ急にこんな風になったのか。

「…光が欲しいって思ったから?」

多分、そうなんじゃないだろうか。想像するにここは彼女が連れてきた場所で。どうなっているかはさっぱりだけれど、きっと私に悪いようにはならないだろう。
とりあえず、思った事が叶うなら、と、今度はいつもお兄ちゃんに連れて行ってもらう原っぱを思い浮かべてみる。その途端目の前には見慣れた光景が広がった。

「おおー…」

思わず感嘆の声が漏れる。鼻をくすぐる緑の香りも優しく吹く風も本物そっくりだ。しかもちゃんと思い浮かべた木の下に私は立っている。これは現実じゃないかと思うようなクオリティだが、燦々と降り注ぐ太陽の光がここが現実ではないことを知らしめる。

「今は夜だもんね」

そう言った瞬間空と思しき場所は濃紺に染められ、星が瞬き始める。それを見上げながらもっとよく見ようと一歩下がろうとすると石に躓いて転んでしまった。

「地味に痛い…!」

後頭部に触れるとぽこんと小さく盛り上がっている。どうやらたんこぶになってしまったらしい。

「痛みもある、っと」

少し整理してみよう。ここは多分スタンドが作り出した世界なんだろう。そしてその世界は私が思った通りになる。その点ではDIOの部下の赤ちゃんのスタンドに似ているかもしれない。違うのは多分精神だけではなく、肉体そのものも取り込めるであろうことだ。でなければ、林檎そのものが消えた説明がつかない。…そしてこれも多分だが、好きな場所に出せる。とりあえず今の所イタリアからカイロの間までは。

「…結構チートじゃないか?このスタンド」

まだ効果範囲は分からないが、もしも万が一身に危険が及べばその相手を先ほどのような闇の世界や極寒の状況に閉じ込めることができる。だがその場合は持続時間が問題か。自分でもほんの少しの時間とはいえ耐えられたのだから、短い時間では意味がないだろう。やはり効果範囲と持続時間がネックか…。

「…って時間?」

待て。今何時だ。ヘタしたら30分くらい経ってるんじゃないのかここにきて。おじいちゃん達を心配させないために帰ってきたのに何してるんだ自分。
慌ててこの世界から出たいと念じると、奇妙な浮遊感の後ポスリとカーペットの上に落ちた。

おじいちゃん達が帰ってきてやないかと耳を澄ますが、物音はせずやはりテレビの音だけが聞こえる。…あれ?

「さっきの続き?」

スタンドに触れられる聞いていたメロディーが丁度終わり、先週見たシーンの続きが始まった。壁にかかった時計を見ると、確かにこの番組が放送されている時間で。放送がずれているわけではない。
…でも、確かに私はあの世界でかなりの時間を過ごしたはずだ。まさか、まさか。

「あなた、あの世界の時間の流れまで、変えられるの…?」

目の前に佇むスタンドは、また少し微笑んだ。

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