神隠しの少女 | ナノ






その日は妙に蒸し暑かった。縁側で昼寝に勤しもうにも熱気が纏わりついて眠れない。縁側で寝るのは諦めるべきだろう。
ホリィママに出かけると伝えて外に出ると人目のつかない所に急ぐ。暑過ぎて一秒たりとも外に居たくない。路地裏に入って一秒。石造りならではのひんやりとした空気にホッと息を吐いた。思った通りDIOの館は涼しかった。

「…なんだ」

ベッドの上からめんどくさそうに声を掛けられるが返事もせずに靴を脱いでベッドに潜り込む。上半身裸のまま寝ているDIOにくっつけばひやりと冷たい。…DIOって冬にはくっつきたくないけど夏には必需品かもしれない。

「おやすみー…」
「おい。…蹴るなよ」
「そこまで寝相悪くありませんー」

二人並んだままうつらうつらとし始めた頃、扉が慌ただしく叩かれた。珍しい事もあるもんだな、と思いながら目も開けずに居ると、DIOが入れと言ったのが聞こえた。

「DIO様!」

テレンスさんの慌てた声に身体を起こすと、きゅっと眉を顰められた。…何か怒られるようなことしてたっけな?
首をひねる私を放置したままテレンスさんが近付いてきてDIOに耳打ちする。餌、逃げ…など細切れのキーワードを拾い上げて組み合わせてみる。…餌の女の人が一人逃げたらしい。この前と言い外の警備は厳しいのに中はザルだな。以前見た女性の顔を思い出してブルリと身体が震えた。

「茉莉香」
「んー?」
「私は少しここを離れるが…鍵をかけて外には出るな。いいな?」
「あーい」

バタンとベッドに倒れ込みながらDIOに手を振る。元々昼寝しに来たわけだし、寝てればいいだけです。
…とは言え、一度目が覚めてしまうと中々寝付けない。ゴロゴロとベッドの上を転がっていると扉の向こうから何か物音が聞こえた。気にしないようにしようと務めたが、更に何度かガタガタと音がする。…えーっと、どうしようか。

@いい子の茉莉香ちゃんはDIOの言い付けを守る
ADIOの言い付けを破って開ける
B寝る

…どれも微妙だ。気になるものは気になるけど開けたくない、でも寝付けない。
と、いうことで扉の前に行って耳をすませる。…どうやら壁に何かがぶつかっているらしい。一体何がぶつかっているんだろうか。
首を捻っていると、女性の声が聞こえた。これは…マライヤさんの声だ。何かを言い争う声がして、マライヤさんの押し殺した悲鳴が聞こえた。マライヤさんのスタンドは基本待ち伏せ・奇襲型だ。いきなり降って湧いた身の危険に対処しきれるとは思えない。
…心の中でDIOに謝ってから勢いよく扉を開く。開け放ったそこに見たのは、壁に押し付けられるようにしゃがみ込んだマライヤさんと、覆いかぶさってナイフを振り上げる赤毛の女性。
マライヤさんは私の出現に目を見開いてるが、女性は興奮しているのか気付いた様子はない。その手のナイフが振り下ろされて―。

ザクリ、と私の手を貫通した。その刃先はギリギリマライヤさんの顔には触れていない。傷口からは痛みよりも熱さが伝わってくる。…大怪我すると痛いよりも他の感覚に置換されることが有るって本当だな、なんて呑気に思ってしまった。女は私に目を丸くして、焦点の合わない目で睨みつけてくる。

「あなた、DIO様の部屋に居たの」

静かに力強く問いかけられるが答えられない。涼やかな眦は吊り上がり歯を剥き出しにした女性の顔は最早ホラーだ。

「最近DIO様が私の所に来て下さらないと思ったら、あなたがDIO様を誑かしたのね。こんな幼い顔して大した玉だわ。汚らわしい、汚らわしい汚らわしい汚らわしい汚らわしい」

ぶつぶつと呟く女性に顔を引きつらせながら、後ろに居るマライヤさんに手でL、O、C、Kと作る。…上手く伝わっているといいのだが。そんな事を考えていると、ナイフが引かれ今度こそ痛みが走った。私の手から勢いよく血が流れる。

[ 2/4 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]