神隠しの少女 | ナノ






DIOの館には植物園が有る。ここだけは昼間でも塞がれずに燦々と日が差し込むので中々気にいっていた。まあ、DIOに連れられて真夜中に来るのも月の光で中々魅力的だが。やはり日の下で輝くものもあるしね。…そういえばこの館って記憶より大きい気がするけど。うん、深くは考えまい。

その日も植物園で持ち込んだ本を読んでいると入り口のドアが開く音がした。はて、一体誰だろうか。DIOは寝ているし日光が照っているので論外だ。テレンスさんやヴァニラなんかは買い出しに行ってるらしいし、他の人たちは寝ているだろう。可能性としてはテレンスさん達が帰って来たとか?そんな事を思いながらドアが見える位置まで行くと、女性が一人立っていた。
日の光に赤毛がキラリと反射する。出る所が出て締る所が締ってる肉体はなんとも魅惑的だ。顔立ちも通りすがった人が振り向くだろう美貌。何処から見てもなんとも魅力的な女性だ。
…その目がどこかドロリと濁っていなければ。
思わず一歩引いてしまいそうな禍々しさを彼女は纏っていた。美人だからこそ負のオーラが引き立っているのかは分からないが、確かに"狂ってる"と感じる何かが、ある。
目を離せずにいると女性がにこりと笑った。その美しさがまた背筋に冷たいものが流れる。

「こんにちはっ」

鈴を転がしたよう、と形容できそうな綺麗な声だ。しかしそのイントネーションの奇異さと見開かれた目が色々とぶち壊している。
そんなことを考えている内にふらふらとした足取りで女性が近づいてきた。もしもの為にスピリッツ・アウェイを出すが、それに全く反応しないことから多分、スタンド使いではない。となれば、残る選択肢は一つ。DIOの餌となる女性だ。
逃げるべきか否かと考えた刹那。女性がいきなり駆けだした。恥ずかしい話だが、ヒッと小さな悲鳴を上げる。なんというか、こちらに明確な敵意はないのが余計に怖かった。

私の腕を掴もうとした時、ドアからテレンスさんの声がして女性が止まる。慌てて距離を取るとテレンスさんが駆け寄ってきた。

「あら、執事さん…DIO様が私を呼んでるの?」
「いえ、今DIO様はお休みです」
「そう…なら一緒に添い寝させて頂こうかしらぁ」
「DIO様の邪魔はしないでいただきたい」

テレンスさんの言葉に女性の目が更に見開かれた。

「邪魔!?DIO様が私を邪魔なんて言うはずないでしょう!!!DIO様は私を愛して下さっているのよ!DIO様は!!!!」

壊れた様に叫ぶ女性に恐怖と憐憫の情が入り混じる。…ああ、DIOに愛されたくて狂ってしまったのだ、この人は。
テレンスさんは顔を歪めながら女性の首筋に手刀を落とした。ガクリと倒れ込んだ身体を支えながら深くため息をつく。

「すみません茉莉香、驚かせてしまったでしょう」
「ああ、ええ。かなりびっくりしました」
「私も扉が開いてるのに気付いた時は血の気が引きました。これでは隔離した意味がない」

隔離、ね。まあ、ここに居る女性は多くがDIOの魅力にやられて来た人達だ。そんな中にこんな自分が一番愛されてる、と妄想であろうと信じ切ってる人がいたら軋轢も生まれるだろう。
可哀そうとも思ったが仕方ない。ここに来る事を選んだのも狂ったのもある意味自己責任だ。強いて言えばDIOの美丈夫っぷりが悪いな、うん。
そんなことを考えながらテレンスさんが女性を連れていくのを見送って読書に戻る。…出来ればもう会いたくないものだ。ぶっちゃけ半泣きになりそうなくらい怖かった。

そうしてその日の事はちょっとした話のネタ、として本の面白さに埋もれていった。

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