神隠しの少女 | ナノ






一瞬の暗闇の後、目を開くとそこは見慣れた自宅だった。おばあちゃん達はまだ帰ってないらしく、付けていたテレビだけが音を立てていた。
アレは夢だったのだろうかと思うが、後ろを振り向けば彼女は確かにそこに居た。

「夢じゃ、ないんだ…」

彼女は何を言うわけでもなく私の側に佇んだまま。手を伸ばせばローブのゴワっとした感触が伝わる。…これっておじいちゃん達にも見えないんだろうな。
確かにそこに居るのに私だけに見えるっていうのも不思議な気分だ。
とりあえず笑いかけてみれば彼女も小さく微笑み返してくれた。

「あなた言葉は喋れないの?」

そう尋ねれば彼女は小さく頷く。これは喋れないということだろう。喋れたらいいのになと思っていただけに少し残念な気分だ。肩を落としているとちょいちょいと引っ張られる。顔を上げると彼女は何かを指差していた。
その視線を追えば机の上に置いてあった林檎を指差しているようだ。…食べたいのかな?
スタンドって林檎食べるのだろうかと思いながら差し出せば、手に持っていた林檎が消えた。

「は!?」

びっくりして彼女を見れば、ほんの少し笑みが深くなったように見える。
まさか、あの一瞬で食べたわけじゃないよね?
頭を抱えたくなっていると彼女がまた机を指差す。そして次の瞬間、林檎がいきなり現れた。

「…あなた、私以外のモノも移動させられるの?」

またコクリと頷く。ああ、一体なんなんだろうかこれ。今度こそ頭を抱えて蹲る。
あれか、テレビのマジシャンみたいにこれで稼ぐとか?脱出トリックさせたら本当にタネも仕掛けもないよ!みたいな。そうしたらおじいちゃん達に贅沢させてあげられるな、なんて現実逃避してみた。

とはいえ、このまま現実逃避していては埒が明かない。おばあちゃんたちが帰ってくる前に聞けるところは聞いておこう。

「えっと、あなたはその、瞬間移動が出来るスタンド、ってことでいいのかしら」

その言葉に彼女は首を振る。…え、違うの?
今まで彼女が起こした出来事は瞬間移動以外の何物でもないと思うのだけれど。

「瞬間移動、だよね?あれは…」

そう尋ねれば頷き返される。瞬間移動したのに瞬間移動が出来るスタンドじゃないってこと?それってどういうことなんだろう。うんうん唸ってみるも答えは出ない。
呑気なテレビは聞き慣れたメロディーを奏でている。ああ、毎週見てるドラマの時間か。そんなことに構っている暇はないのに、つい思ってしまう自分のマイペースも今は憎らしい。

「じゃああなたは一体何のスタンドなの?」

結局自分で考えても分からず、そう問いかければ彼女の手が頬に触れて、また視界が闇に包まれた。

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