神隠しの少女 | ナノ






和やかに夕食を終えて、幸せのまま眠りに着きました…ならどれだけ良かった事だろう。就寝の支度を終え、明日のエンヤ婆とする話について考えていると、あの男J・ガイルの顔がちらつく。どうやら自分で思っていた以上に嫌悪感でたっぷりの様だ。誰もいないとこでかち会ったら本当に殺してしまうかもしれない。
それにしても考えなきゃいけないのに考えられないという状況はかなりストレスだった。
…いっそもう館に行ってしまおうか。現在深夜一時、向こうは八時。そろそろ館の人間が活動する時間だ。少なくとも食事の準備が有るテレンスさんは起きてる。手伝いでもしていれば問題はないだろう。不安要素としてはホリィママや承太郎に不在に気付かれることだが…。夕飯時にハイテンションで騒いでたから起きてこないだろう、多分。もしもの為に散歩行ってきますとでもメモしといて。…もし起きてくる前に帰ってこれなかったらまた怒られるんだろうなー。さっさと行ってさっさと帰ってくるように心がけよう。


DIOの寝室には誰もいなかった。…食事時か?まあ、元々餌のお姉さん達の居る方には近付かないし問題ないけど。とりあえず台所にでも行こうかな。

廊下に出れば珍しく窓があいて月光が差し込んでいた。覗けば今夜は満月らしい。通りで明かりが無くとも明るいはずだ。
月の光に映し出される館は中々風情が有る。風通しが良くなって新鮮な空気が吸えるのもまた素晴らしい。そんなことを考えながら角を曲がった途端、清々しい気持ちが木っ端みじんに消し飛んだ。
廊下の先には、質素なワンピースを着た女性の後ろ姿とそれに覆いかぶさるように首筋に顔を埋めるDIOが居た。…あー、この距離感昨日の出来事思い出してイラっとする。あのくらいの距離にアイツ立ってたんだよなー、見慣れないってだけで回れ右しときゃよかったよ…なんてことを考えていたら、いつの間にかDIOの視線がこちらに向けられていた。
未だに女性を抱きながらこちらを見るDIOの目が赤く光る。思わず、ドキっとしてしまう妖艶な輝きに腕を抱いた。
そして、嬌声と言うには悲痛で、断末魔と言うには甘い吐息を漏らして女性の肢体から力が抜けたのがここからでも分かった。DIOはその身体をゴミでも扱うように投げ捨てた。…せめてもう少し餌にも敬意を持とうよお兄さん。御馳走様の意味を知りなさい。


「随分と早く来たな」

「ああ、ちょっとね」


こちらに歩を進めるDIOに普段より随分と素っ気なく返事を返す。まあ、いわゆる八つ当たりだ。普段なら気にしないであろう、血を吸われた後の女性の扱い方にすら腹が立つ。私の目の前まで来たDIOが首を捻った。

「何を苛立っているんだ」
「別に。強いて言えば君の女性の扱いとか食事についてとか?もう少し丁寧に扱ってやりなよ。ていうか食事は決められた所で摂ったら?行儀の悪い」

いつもよりかなり辛らつな言葉を吐く私にDIOが目を丸くする。DIOにこんな口をきいたのは多分初めての事だ。自分でもDIOに当たっても仕方ないとは思うが、イライラするものはイライラする。…どうも私はDIOの前では取り繕うと言う事を怠る癖が有る。信頼していると言えば聞こえはいいがこれではただの甘えだ。ふう、と息を吐いて前髪を掻き上げる。一言謝ろうとする前に、足が宙に浮いた。

「ちょ、びっくりするじゃん!」
「耳元で叫ぶな」
「いや、…抱き上げるなら一言言ってくれない」
「次回から善処しよう」
「絶対する気ないだろ」

言葉を交わしながらDIOの足はズンズンと前へ進む。どうやら広間でも目指しているらしい。

「…自分で歩けるよ」
「いいから大人しくしておけ」

これは何を言っても駄目だな、と思い足をぶらぶらと揺する。この歳になって片手で抱き上げられるとかそうないよね。いや、DIOなら大人でもできそうだけど。そんな事を考えながらいつの間にか苛立ちが収まってることに気付いた。…DIOヒーリング?随分と人を選びそうだな、なんて笑いを噛み潰した。

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