神隠しの少女 | ナノ






結局あの後書庫によること無く家へと戻ることにした。だって今はあそこに居たくないし。気を緩めると眉間に皺がよりそうになる。しかし。これではホリィママに心配をかけてしまうし、なんとか平常の顔をキープしないと。顔面筋に気を使いながら玄関を開けると、おしゃれをしたホリィママが丁度靴を履いている所だった。

「ただいま。どこか出かけるの?」
「ああ、茉莉香ちゃん!それがお隣の奥さんに買い物に誘われちゃって…行ってきていいかしら?」

もうしっかり準備を終えているが、ここで行かないでと言えばきっと行かないんだろうなあ。ホリィママは何時だって子どもが最優先な人だ。しかし、止める理由は特にない。服装からして結構楽しみにしてるみたいだし。

「いいよ。今日のお夕飯カレーだったよね?私作っとくからゆっくり見てきなよ」
「そんな!ちゃんとご飯の支度までには帰ってくるわ!」
「いいのいいの。いっつも美味しいご飯作ってもらってるからたまには私に頑張らせてよ」

そう言えば感極まったように涙目になりながら抱きついてくるホリィママは確かに可愛らしい。でも、やっぱり背骨が痛いです。

「ありがとう茉莉香ちゃん!御礼に美味しいケーキ買ってくるからね!」
「じゃあ、美味しいチーズケーキを所望します」

私の言葉に任せといて!とウィンクするホリィママをのんびりと見送った。…なんというか、可愛らしいしぐさが幾つになっても似合うって微笑ましいやら羨ましいやらだなあ。
さて、気分転換にじっくり玉ねぎでも炒めようかな。

と思ったものの、今はまだ12時前。夕飯の支度には早すぎるので宿題をやることにした。が、直ぐに終わってしまう。…そりゃそうだよね、大の大人が小学4年生の問題解けないって大問題ですもんね。見た目は子ども、頭脳は大人なあの名探偵もきっと苦労してた事だろうな…。なんて二次元の人間に感情移入してしまった。いや、ここも元々は二次元ですけどね!
縁側に座りながら一人脳内ノリツッコミなんて物悲しい事をしていると承太郎が家の前の橋を渡ってくる所だった。…まあ、正しく言えばあそこも敷地内なんだけども。この家本当に広いよね、慣れるまで何回迷った事か。こちらに気付いたらしい承太郎に手を振りながら自分の方向音痴っぷりを嘆くのであった。

「おふくろは」
「お隣さんに誘われてお買い物に行ったよー」
「そうか」

玄関に向かわずにそのまま庭に入って来た承太郎を見上げる。…いい日除けになるねお兄さん!

「ねえねえ」
「んだよ」
「承太郎ってさ、高校に入ってから急にホリィママの事おふくろ呼びになったよね」
「…別にいいだろうが」

不満げにそっぽを向く承太郎。ここに来た時はまだ素直なデレっぷりだったのになあ。でも、こうして顔をしかめているのも可愛いぜ承太郎!と思うようになって来た。うん、私承太郎大好き過ぎだね!でもいいんだ、承太郎カッコ可愛いぜヤッフー。

「なにニヤついてんだ」

ビシッといい音を立てて決められたデコピンすら愛しいぜ!…流石にこれはアウトだな。怪訝な顔をする承太郎にヘラヘラと笑い返しながら、脳味噌腐ってるかも、なんて馬鹿な事を考えていた。
昼食にホリィママが作っておいたチャーハンを承太郎と二人で食し終わった。…お米って普通に食べるもよし、煮るもよし、炒めるもよしの万能食材だよなあ、揚げても美味しいし。お米の無限の可能性について考えながらエプロンを身につける。このエプロンホリィママがわざわざ作ってくれたんだけど、ピンクにフリル付きで少々恥ずかしい。いや、この年頃じゃなきゃ無理だろうけど。

「…何かやるのか」
「んー?カレー作るんだよー」

背後でお茶を啜る承太郎に間延びした声で答えつつ材料チェック。玉ねぎ結構あるなあ、いっそ全部みじん切りにして炒めちゃおうかな。冷凍しとけば使う機会ちょくちょくあるし。オニオンスープとかいいよね、好きだ。

「お前料理出来たのか?」
「…いやいや、何回もホリィママと一緒に台所立ってたじゃん」
「皿出しとかじゃねーのか?」
「じゃないよ!」

…えー、何かなんとも言えない脱力感が。まあ、承太郎はあんまり台所仕事しないしね、うん。こうして台所に居るのってたまに二人で食べる時に運ぶの面倒くさがって食べるくらい…。そこまで考えてハタと気付く。…承太郎って、料理できないのか?
いや、まあ平成の世では料理の一つも出来ない男はダメだとか言われてたけど今はまだ昭和だし、男子厨房に入るべからずでもいいとは思う、が。…エジプトに向かう時とかアメリカで生活するようになったら外食三昧じゃないかそれ?まあ、エジプトに向かう間はまだいい。ホテル暮らしだし、長くて二カ月足らずだし。しかし、アメリカに行ってからもそれはどうなんだ?器用そうだから出来なくはないだろうが案外面倒くさがりだし。

「よし、承太郎!一緒にカレーを作ろう!」
「あ?」

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