神隠しの少女 | ナノ






その後、眠いから出て行けと部屋から追い出されてしまった。まあこっちは午前四時過ぎ。DIOにとってはちょうど就寝時間なのだから仕方ないか。…百年寝ていても寝る事には嫌気は差さないんだな、なんてつい笑ってしまう。

妙にツボに入ってしまって半笑いのまま廊下を歩いていると、先に誰かが立っていて少し顔を引き締めた。逆光で誰だか分からない。だが、この館の中にいると言う事は敵ではないはずだ。近付くにつれ、ひょろりと長い体躯で酷い猫背だということが分かる。その姿に何か違和感を覚えた。何が、気に掛かってる?特筆しておかしな所、は…。
足が縫いつけられたように留められる。その男の左手は"右手"だった。

「見ない顔だなあ」

そのどこかねっちこさの漂う喋り方にあの男の顔が蘇った。
こちらに向けるドロリとした目といい、私の祖母と友人を殺したあいつと似ている気がして胸糞悪い。もしかしたら、数歩手前に佇むその男…J・ガイルがポルナレフの仇であり、無力な少女を自身の欲望のままに蹂躙したという過去を知っているからかも知れないが。

「…どうも」

とは言え喧嘩を売る理由もない。小さく会釈をして通り過ぎようとした腕を掴まれた。ゾワっと全身に鳥肌が立つ。反射的に腕を引くが込められた力にピクリとも動かなかった。見上げたその顔がにやけているのに気付いて、サアッと血の気が引く。ヤバい、気持ち悪い。

「DIO様の餌にしてはガキだが…宗旨変えでもしたのか?」
「…」

うわーうわーうわー。やっぱり気持ち悪い。キモイじゃなくて気持ち悪い。上から下まで舐めまわすように見るのやめてください。というか息すんな。私の肺が汚れるだろってレベル。

「そういうのじゃないので。腕離していただけますか」
「ほー。そんなこと言わないでちょっと楽しい事でもしねーか」

あ、無理。もう無理だわこの人。いっそその右手な左手切り離してやるから脳味噌ごと新しいのつけて貰いなよ。
スピリッツ・アウェイを呼ぼうと口を開いた刹那、テレンスさんとヴァニラがやって来た。タイミングいいんだか悪いんだか。

「…J・ガイル、何をしているんですか」
「何、ってちょっと新入りに声かけてただけだろぉ」
「そいつは新入りではない。DIO様の客として来ている」
「このガキがDIO様の客?」

再度ジロジロと眺められ頭に血が昇って行く。その目抉りだしてやろうか。

「それは失礼しました」

言葉だけは慇懃に、表情は下卑た物のまま腕を離される。…どうせ下世話な事でも考えているんだろう。舌打ちしたいのを堪えてテレンスさんとヴァニラの元に駆け寄った。ヴァニラがさりげなく後ろに隠れさせてくれたことにキュンとしました。

「エンヤ婆には夜訪れると聞いていましたが」
「ああ、おれの方がちょいと先に着いたみたいだなぁ」
「…そうですか。客間の用意は出来ていますからそちらへどうぞ」
「じゃあ、ゆっくりと休ませてもらうかぁ」

ニヤニヤと笑いながら去って行く後ろ姿に吐き気を覚える。強く握りしめた手が悲鳴を上げた。

「なにかされたのか」
「ううん。…でもエンヤ婆には悪いけど、さ」

殺しちゃいたいくらい嫌いだあの人、と漏らす私の頭をテレンスさんが困ったように笑いながら撫でてくれた。

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