見慣れたベッドの上にDIOは居なかった。食事中かはたまたテレンスさんの所にでも行っているのか。探しに行ってすれ違うのは避けたい。本当は会うのを恐れてるだけのくせにそんな風に言い訳してベッドに倒れ込んだ。
風を受けたベッドから仄かに香りが舞い上がる。どこか蠱惑的なそれは普段DIOの纏っているものだ。香水なのかは分からないが、彼は妙にいい匂いがする。時たま血の香りが混ざる時もあるが、それすら似合うのだから恐ろしい。そんな事を考えながら少しづつ心が落ち着くのを感じていた。…DIOの香りで落ち着くってなんか冷静に考えると妙に恥ずかしいよね。絶対に口には出せない。今度は違う意味で悶絶して動けずにいると、ドアが開く音がした。
この部屋の扉をノックせずにあけるのは私か部屋の主のみだ。つまりDIOである事は確定なのだから振り返ることはしない。だって今顔真っ赤だろうし。
「随分と久しぶりに顔を合わせると言うのに…挨拶くらい出来ないのかお前は」
「DIO様ご機嫌麗しゅうございます。お久しぶりにお会いできて真に嬉しい限りです」
「…明日は天気が荒れそうだな」
「どういう意味だよバッキャロー」
シーツに顔を埋めたまま悪態をつけば、ベッドが沈む。身体が斜めるのに任せるとゴロリと反転した。目の前には私を見降ろすDIOが居て。顔に掛かった髪を払いのけられたかと思うと、眉をひそめられた。
…それはあれか。私の顔が直視できないってことか。文句の一つも言ってやろうとするが、それは叶わなかった。
「何が有った」
「へ?」
「何かが有ったからそんな顔をしてるんだろう」
そんな顔ってどんな顔だ。言ってることが理解できずにポカンとする私にDIOはため息を一つつくと、軽々と私を抱き上げた。
急な行動に着いていけない私の事など知った事か、とばかりにDIOは部屋を出てズンズンと進んでいく。内心パニックになりかけながらも、やっぱりDIOの匂いって落ち着くな、なんて考えていた私は結構図太いかも知れない。
辿りついたのは台所で。いきなり現れた私たちにテレンスさんもびっくりしている。
「テレンス、茉莉香に温めたミルクか何か出してやれ。ああ、後この前行商だか何だかが持ってきた快眠の効果が有る香の用意をしろ」
「は、はい!」
挨拶をする暇もなくテレンスさんは動きだし、私は椅子に降ろされた。その私の前にDIOが座り、じっとこちらを見てくる。正直気まずいです。
「えーと」
「何時からだ」
「へい?」
あ、変な声でた。
「何時から寝れていない」
DIOの言葉に、一瞬思考が止まった。え、なんで気付いたのこの人。
「テレンスさん…私寝てないように見えます?」
いそいそと鍋を取り出すテレンスさんに問いかければ、こちらを見ながら首を傾げる。
「…少々顔色が優れない気がしなくもないですが。言われなければ気付かないでしょうね」
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