神隠しの少女 | ナノ






「あの、ご迷惑おかけします。すみません…」

丁寧に横たえられて、熱が上がった気がする。出来ればこのまま布団に顔を埋めたかったが、ここまでしてもらったのだから礼は言わねばなるまい。そう思いベッド脇に佇む承太郎に声をかければ眉間にしわを寄せられる。…え、何かした私?

「アホ」
「…へ?」

何故いきなり罵倒されたんだおい。

「体調悪い時くらい頼れ。…家族だろ」

そう言うと承太郎は小さく舌打ちする。きっとどう言えばいいのか悩んでいるのだろうが私は私でまたもや急激に熱が上がったような感覚に苛まれていた。

ああもう可愛い。可愛いなあ承太郎は!
承太郎にばれたらオラオラされそうな思いが頭を駆け巡り、にやにやと笑いそうになる。全くなんていい子なんだろうかこの子は。
思春期にいきなりもう大きい妹が出来て戸惑っているだろうにこうして気に掛けてくれて、家族だと言ってくれる。歩み寄ろうとしてくれているのだ。

だが、同時にそれは未だ歩み寄れない私との違いを浮き彫りにしてくれた。
家族になりたいと望んだくせに、未だにここに居ていいのかと煩悶を繰り返す日々。歩み寄ろうとしても、数年後に起きるであろう出来事が私の気持ちを躊躇わせて。
それでもこの家の人たちは私の事をこうも想っていてくれて。それを感じる度に私も想う気持ちが募って行く。そして一歩踏み出す勇気をくれるんだ。

ああ、人ってのも案外素敵な生き物だよDIO。

彼に言えば鼻で笑われそうな事を思いながら、承太郎の服を掴んだ。

「…じゃあ、一つお願いしてもいいかな?」
「なんだ?」
「寝るまで側にいて貰っても…いい?」
「そんなんで良けりゃ幾らでもしてやるよ」

椅子を引き寄せて座った承太郎に笑いかければ少し笑い返してくれて。目を閉じれば一度頭をなでられる。なんだかこそばゆい。

「ああ、そうだ」
「んー…?」
「さっきみたいな時は、謝るなよ」
「へ?」
「ごめんじゃなくて、ありがとうでいいんだよ」
「…うん」

承太郎の言葉に胸の内がポカポカと暖かくなるような不思議な感覚に包まれながら、ゆっくりと眠りに落ちた。


次に目を覚ましたらもう外は暗くなっていて。
隣では承太郎が椅子に座って本を読んでいた。それをぼんやりと見つめていると、視線に気付いたのか承太郎が顔を上げる。

「起きたか」
「うん」
「具合はどうだ?」
「だいぶ良くなったみたい」

寝起きだからぼんやりとしていたが、倦怠感はもうない。身体を起こすと枕から何かが落ちた。…水枕だ。多分承太郎が持ってきてくれたんだろう。

「ずっと居てくれたの?」
「ん?ああ、何かあった時下に居たら分からないからな」

机の上には空いたお皿が乗っていた。どうやら昼食もここで摂ってくれていたらしい。

「承太郎、…ありがと」
「…おお」

横を向いた承太郎はどこか照れくさそうで。なんだかこちらまで気恥ずかしくなる。少しの間沈黙が続く。それを切り裂いたのは玄関の開く音だった。

「母さん帰ってきたみたいだな」
「う、うん」
「お粥か何か作ってもらうから待ってろ」
「はーい」

私が熱を出したと聞いたホリィさんが部屋に飛び込んでくるまで、緩んだ顔が戻ることはなかった。

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