神隠しの少女 | ナノ






「私にとって世界は大切か大切じゃないか。大切な物の中に優先順位はあるけど、そうじゃないモノはどれだって一緒だよ。目の前でもそうじゃなくても。だから、そんな気を使ってくれなくて大丈夫。彼らは"大切じゃない"から"どうでもいい"」
「…大切じゃないからどうでもいい、か」
「うん。そりゃ倒れてる人が居たら介抱くらいはするけどね。でも、例えそれで助けられ無くてもああ、残念だなぁ。ってくらいだよ」

そう言って頷くと持っていたジュースを飲む茉莉香は傍から見たら、ただの子供だ。なのに、内面はこんなにも異端である。もちろんダンも人の事は言えない。元々殺しを生業としているし、人の上で踏ん反り返っているような奴を仕留めた時は愉快ですらある。
そんな自分と、こんな何処にでもいそうな子供との価値観が合うなど誰が想像しただろう。しかも、命について、なんて!ダンは思わず声を上げて笑いたくなるのを何とか堪えた。

ああ、そう言えばラバーソールの奴が「茉莉香は普通だけど、普通じゃないからおれらと居てくれてんだよな」なんて言っていたのを思い出す。それを聞いてダンは何を言っているんだと思った。この子供がどれだけおかしいのか気付いていなかったのかと。大体初めて会った時から言っていたではないか。DIOのしている事を知っている、それでも友人だ、と。普通、の子供が受け入れる事ではない。初めっから、この子供は歪んでいる。

他者を一切省みず、そのくせ自分の大切だという者には酷く執着していて。ただ純粋に好意を持ち、犠牲的とまで言える献身性を持っている。それは酷く愚かで、美しく醜悪なエゴの塊だ。それをこの子供は知っているのか。それはダンには分からない。
だがきっと、自覚していなくとも気付いている。だからこそ、こうして笑うのだ。自嘲するように、泣きそうに。

馬鹿馬鹿しいと、思う。だが、そんな馬鹿な子供の純粋な思いとやらは存外心地よいという事をダンは知ってしまった。
自分はあの男や時たま茉莉香の口に出る新しい家族とやら程優先はされていない。しかし、あそこで倒れている奴よりは大切と思われている。それは、掛け値なしに欲された事のないダンの様なものにとって、渇望し続けたものだ。もしかしたら、あのDIOですら、その甘美さに絆されているのかもしれない。
全く、末恐ろしいガキだ、とダンは宙を仰いだ。

「おい」
「んー?」
「折角ここまできたんだ。何か乗っていくか?」
「いいの!?」
「ああ」
「じゃあどこにしようかなあ」

後ろの騒ぎとは隔絶した空気に周りから辺に思われないか少しばかり気になったが、まあいいだろう。
行くところを決めたのか立ち上がった茉莉香に合わせて立ち上がる。そうすれば嬉しそうに私の手を握って駆けだす茉莉香に小さく笑った。



甘く搦め捕られる
この温かな体温が浸透するのが心地いいなんて!

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