何の会話もなく数分。きょろきょろと薄暗い部屋を見まわしながら待っていると、もう一度ノックの音がして、またヴァニラ・アイスと…やはりエンヤ婆が居た。
…なんというか黒いローブは着てないけれど、雰囲気が魔女そのものである。
「DIO様、その子がスタンド使いですかの」
エンヤ婆に見られて思わず隣のDIOのズボンを掴んで後ろに隠れる。おばあちゃんなのに眼力ありすぎだろエンヤ婆…。なんかヴァニラ(長いから省略して呼ぼう)に睨まれた。DIO好き過ぎだろヴァニラ。
「ああ」
背中を押されて仕方なくおずおずと立ち上がると、思っていたより機敏な動作で近付かれる。
「お譲ちゃん、スタンドを出して御覧」
「…えっと」
出せ、と言われたって出せない。というか出そうと思って出せるくらい制御できてるならこんなところには来ない。
「…スタンドが分からないのかい」
「は、はい…」
とりあえずエンヤ婆の言葉に頷き返す。どう出すかとか分からないっちゃあ分からないし。
「ふむ…いきなりここに現れたと聞いたんじゃが」
「あ、はい。テレビでここを見て行ってみたいと思ったらここにいました!」
エンヤ婆なら分かってくれるかもと思い、原因ぽいモノを伝える。…何も知らない人が聞いたら頭おかしいと思うような言い分だなこれ。
だがやはりエンヤ婆は大きく頷いた。
「ではあそこに行きたいと強く思って御覧」
そう言って部屋の角を指差される。
とりあえず言われたとおりあそこに行きたい!と思うと、ここに来た時と同じように誰かの手が肩に乗せられる。
慌てて振り返ると仮面をつけた女の人の顔が見えた。かと思うとまた視界が闇に遮られ、目を開けると指差された場所に佇んでいた。
「確かに…スタンド使いですな」
「ふむ、私にはなにも見えんな」
「DIO様ならばいつか何物にも負けぬスタンドが現れるはずです!」
「ヴァニラ・アイスの言うとおりですじゃ」
何だか私を置いてDIOを褒めちぎっている。
というかこの頃のDIOはまだザ・ワールドが居ないのか。スタンド見えないんだもんね。
なんて考えているとエンヤ婆が勢いよくこちらを向く。…正直かなり怖かったです。
「お譲ちゃん名前は何と言うんじゃ」
「え、あ、茉莉香です」
「ふむ…茉莉香、お主移動する際何か見えたか」
何かとは、あの仮面をつけた女性…スタンドだろう。
「あの、女の人が、みえました」
「いかにも、それがお嬢ちゃんの"スタンド"じゃ」
エンヤ婆が"スタンド"の説明を始める。それを聞きながら自分でもぼんやりと思いだす。
ふむふむ、流石にジョジョから離れて数年。スタンドのこまごまとした概念を忘れてるな。えーと、パワー・射程・スピード・精密さ・範囲・成長性…確かこんな感じでランク付けだったかな。
「慣れてくれば上手く制御もできるじゃろう」
エンヤ婆の言葉に頷きながら、制御ねえ…と考える。まあ、まず家に帰りたいよね。なんて思って気づく。DIOとかスタンドとかで混乱してた忘れてたけど、帰ってきて私が居なかったらおばあちゃん達心配するじゃん!
優しい祖父母に余計な心配はかけたくない。
頭の中におじいちゃんとおばあちゃんが優しく迎えてくれる私の家を思い浮かべる。
帰れるなら、今すぐ帰りたい…!
そう強く思った瞬間、肩に優しく手が置かれる。上を見れば、"彼女"が微かに微笑んでいて。
視線を戻せば、エンヤ婆が驚いたような顔をしている。
「あ、あの!ありがとうございました!」
言いきったかどうかの間にまた視界が塗りつぶされた。
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