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歳月人を待たずとはいうけれど、本当にそれを実感した時には研磨と会わないのが日常になっていた。

ふとした瞬間に感じていた研磨の影を感じなくなって、それが当たり前になったのは何時だっただろう。

男女の幼馴染などそんなものだと言ってしまえばまさにそうなのだろうけれど、長年一緒に過ごしてきた研磨を、忘れてしまうとは、と自分に呆れる。

それと同時に、思い出してしまえば、寂しさが自然と芽生えてくる。

会いたい、なんて思っても簡単には言えない、それに忘れかけていたのにどんな顔をして会えばいいのか、どんな話をすればいいのか、何一つとして浮かばない。


どうしたものか、と考えていれば、不意に、振動しだした携帯、緩慢な動きでそれを手に取って、思わず目を見開いた。

動揺しつつも、応答ボタンを押せば、少しの息遣いのあとに、もしもし、と聞き慣れた少し弱々しさを感じさせる声が聞こえ、同じくもしもし、と返せば、少しの間の後に、俺のこと、覚えてる?と不安げな言葉が繋げられた。


「忘れるわけないじゃん、幼馴染だよ?」

「それは、…そうなんだけど、ずっと会ってなかったし、…覚えててくれて良かった」


実際少し前まで忘れてた、という言葉は言えそうにないな、と思いながら、やっぱり電話の相手…、研磨は私のことわかってる、なんて、妙な感動を覚える。


「それで、何の用だったの?」

「え、ああ…その、久しぶりに会いたいなって」

「会いたい…、って、研磨部活忙しいんじゃなかったっけ」

「今週末…久々にオフだから」

「なら、休息とった方がいいと思うけど…、まあ、いいよ、でも、そういうの、好きな子に言いなよ」


勘違いしちゃうからね、とからかいまじりの口調で言えば、返ってきたのは、怒った声でも焦った弁解でもなく、ただの静寂。

不思議に思っていれば、歳月人を待たず、と先程思っていた言葉を研磨が電話口で呟いた。


「光菜と顔合わせなくなって、大分経ったよね」

「え、まあ、そうだね」

「その間、ずっと光菜のこと考えてた」


今なにしてるかな、とか、なにを思ってるのかな、とか、俺のこと、覚えてるかな、とか、光菜も俺のこと考えてくれたらいいのに、とか。


「カッコ悪い通り越して気持ち悪い…よね」

「気持ち悪いなんて、…そんなことない」

「…光菜と会わなかったら、光菜のこと考えることもなくなるかなって、そう思ってたのに、駄目みたい」


会わなかったら会わなかった分だけなにしてるのか気になって、やっぱり駄目だった、なんて困り気味に言われた言葉に困惑すると同時に抱いた疑問にまさか、そんなはずはない、だってずっと会わなかった、会おうと言ってくれたのだって、今回が最初だ、期待するな、と長々考えて切り捨てようとすれば、聞こえてきたのはヒュッと息を吸い込む音。

何をそんなに緊張しているんだか、なんて思っていれば、発せられた言葉は今しがた切り捨てようとしたものだった。


「やっぱりどれだけ離れてても、そばにいられなくても、光菜が好きみたい」

2012.11/12 hypnos様へ提出


歳月が僕らを引き裂いても

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