※『涙目』主人公&設定 リクエスト作品





風が少し冷たい。

藤堂くんは寒くないのだろうか?
ちらりと横を盗み見て、むき出しの肩に鳥肌が立っているのを見つけた。浅葱色の羽織は腕の中だ。

「羽織、着たほうがいいんじゃないですか?」

私が喋ったことが意外だったらしく、藤堂くんは目を見開いてじっと見つめてきた。
そんなに驚かなくてもいいのに。

「あー…男はそんなのいらないからな」
「私着てますよ」
「悠は普通のやつだろ。俺は新選組のだし……」

新選組のはだめなのだろうか?

「別に新選組のだって良いじゃないですか」
「いや、悠が新選組と関係あるって知れたら監視が終わったときにお前が困る……あ」

しまったという顔をして、藤堂くんは口をパクパクさせた。
そこまで考えていてくれたのか。…役立たずな私のために。

「ありがとうございます。でも風邪ひいたら良くないし……」
「あの…あー……。あ、ほら、食えよ」

気まずそうに目をそらして運ばれてきたお団子を差し出してくる。
一本手にとると、藤堂くんは呆れたように「お前食べないんだからもっと食え」と言った。大きなお世話だ。

言い返そうとしたその時、

「確かに。君、かなり痩せてるね。彼の言う通りだよ」

時間が止まった。舞う落ち葉も行きかう人々も、すべて静止した。
反射的に立ち上がって逃げようとした。藤堂くんがいることは既に頭から消えていた。

逃げないと……逃げないと……―――逃げろ。

「どうしたの? 」

小さく笑って、お団子食べかけだよと言う彼。南雲薫は、無言で"ここにいろ"と言っている。
逆らってはいけない。言うとおりにすれば、安全だ。
でも、何かされない自信はない。どうしよう。…どうしよう

「寒くなってきたし、帰るか、悠」
「え、あ……」



温かい手が、かなりの力で私の腕を掴んだ。



「食べてる途中なんじゃない? いいの?」
「…お前さ、どこの誰か知らないけど、あからさまに殺気出すのやめてくんない?」

藤堂くんは薫を少し睨んでから歩き出した。当然、私もそれにひっぱられる。

何か言わなくてはいけない気がした。でも、言葉は出てこない。そうしているうちに薫との距離はぐんぐん離れていく。

「悠 」

諦めて前を向こうとした時、微かに薫の声が聞こえた。
振り返ると、食べかけの団子を食べている彼がいた。



「ちゃんと食べなよ」



思わず立ち止まる。
藤堂くんが不思議そうな顔でこちらを見ているのがわかったけれど、どうにもできなかった。

「知り合いだったか? …悠おびえてたから逃げたけど……」

不安そうな藤堂くんをよそに、私は薫を見続ける。
が、まばたきをした瞬間に彼の姿は消えていた。

「いえ、ありがとうございます……ありがとうございました」

今度こそ探るような目をした藤堂くんに、私はぎこちなく笑いかけた。
しかし、それを見た彼の顔はどんどん曇っていく。

「なあ、」
「そういえば、さっき話しかけたとき、どうしてあんなに驚いたんですか?」

何か言おうとするのを遮って、適当な質問をした。
これ以上薫について聞かれるのはまずい。

「さっき?…あ、ああ」

藤堂くんは少し面食らった顔をして、黙り込んでしまった。

「あ、答えられないなら別にいいんですけど……」

聞かれたくないことだっただろうか?
藤堂くんは眉を下げて、「怒るなよ 」と言った。
何を考えたんだ。

「……なんつーか、悠は俺のこと嫌いなんじゃないかと思っててさ。気にかけてくれたのが…かなり意外で」

藤堂くんは不安そうにこちらを見る。尻尾があったら垂れ下がっているだろう。

「私そんなにつんけんしてました?」
「ああ、話しかけるたびに般若みたいな怖い顔で見てくるから…」

特に愛想笑いもしなかったけれど、そんなに恐ろしい表情になってたのか。

「……すいません、気をつけます」
「あっ」

言ってから自分の失言に気づいたらしい。そんなにびくびくしなくてもいいのに。

「とりあえず羽織を着てください。風邪を引いたら気をつけるもなにもないです」

掴まれた腕をそのままに、彼の腕から浅葱色を強奪した。
着やすいように広げて差し出すも、藤堂くんは身動きしない。
どうしたものかと首を捻っていると、彼はぽつりと呟いた。

「……悠がちゃんと飯食うって約束するなら着る」

じゃないと着ないからな。

そう言って笑う彼はとても幼く見えて、思わず笑った。



くすぶる心臓

(いろいろ聞くのは、もう少し先でいい。)
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