※リクエスト作品
私は、中流の鬼の家で生まれた。
女ということもあって、自分の未来は幼い頃から決まっている。
最初はそれに反発したが、いつからかそれを受け入れてしまった。
……いや、受け入れることが出来た、か。
どうせ、嫁ぐ先は雪村家か風間家だと思っていたが、雪村家はどうやら滅んでしまったらしいので残るは風間家だけである。
鬼の血のことのみを考える、私からすれば馬鹿以外の何者でもない男と添い遂げる。……かなり苦痛だ。
そんなことを思っていたのが一ヶ月前。嫁入り準備のために風間家へ居候し始めたのが二週間前。風間家当主であり夫となる風間千景と対面したのが、一週間前。
彼が存外優しいことに気づいたのはそのときだった。彼はどこまでも我が儘で、高飛車で、優しかった。
「悠、何をしている」
「…空を見ていました」
「…何か掛けていろ。身体が冷える」
彼は優しくて、残酷だ。そんなことを言われたら愛されていると勘違いしてしまう。
私は知っている。私が婚約に応じなければ、風間家はいずれ途絶えてしまうことを。すべて、私を逃がさないための優しさだと。
彼も所詮、鬼の血のことだけを考える馬鹿だ。
なのに、
「空なんてどうでも良いだろう。俺の傍にいろ」
彼の言葉を本気にして、本気と信じてしまう私は愚かで、彼よりずっと馬鹿だ。
嫌ったはずの偽りの愛を、必死に求める姿は滑稽だろう。
私は、彼を好きになってしまったのだ。
「好きだ、悠」
聞こえなかったふりをして空を見続けた私は、彼が幾多の婚約を蹴っていることを知らない。
あなたからあいを頂戴します