「馬鹿じゃないの、お前」

土砂降りだった。私は天気予報を見ない人間だし、傘を携帯するような性格でもないので、やっぱりそういう事になった。そういう事とはつまり、学校で待機だ。
濡れるの覚悟で走って帰るという手も一応ある。けれど、女子としては好ましくない行動であることは間違いない。
そうして、止むのを待っていた。土砂降りは大抵通り雨だとずいぶん前に理科で習った。なるほど、こういう時に役立つのか。
中身のない考えを巡らせていると、冒頭でのあの言葉が聞こえた。よく知っている声と罵倒だ。

「…薫」
「傘、俺の入ってけば?」

威圧感が怖いので遠慮したかったが、問答無用で入れと訴える。
…まあ、助かるし。

「お言葉に甘えて」

そうっと、肩がぶつからないように傘の下へ。
なんかすごくぎこちない。汗かいてきた。

「悠、なにびびってんの」
「いや別にびびっては」
「汗、すごいよ」
「……」

土砂降りだった雨がポタポタに変わっていく。もうすぐ止みそう。
いや、そんなことよりも重要なことがある。どういうわけか、隣の南雲くんとの距離が近くなっている気がす……いや、なっている。だってさっきまで肩触れてなかった。
よく分からないが緊張してきた。仕方ないだろう、だって薫はかっこいい。あれでシスコンじゃなかったら学園の王子様だって夢じゃない。…でも毒舌だから、やっぱ王子は無理かも。
じゃなくて、まあそのなんだ。そんな美少年南雲薫と仲良く相合傘の自分。深呼吸したらなんか良い香りがした。シトラス系の、爽やかな、

「なに、用事でもあったの」
「あ、いえ何でもないですハイ。」
「意味もなくこっち見ないでくれる?」
「ごめん」

良い香りの元は薫だった。イケメンていい匂いするんですね。
それにしても、私が目を向けたとはいえあれは言いすぎじゃないかと思う。白い頬が若干赤くなってたとかは見なかったことにする。

「…雨、止んだ」
「………。」
「薫、雨止んだけど」
「止んでない」

ぴちゃぴちゃと数滴雨粒が落ちて、後は聞こえなくなった。空は青い。どう見ても晴れている。止んでないというのは……うん、間違っている。私は合ってる。

「どう見ても…その、晴れてる、けども」
「うるさいなあ濡れたいの?お前が風邪引くと俺が困るんだ、びびってる場合じゃない、もっとこっち来い」

薫くんのスーパー早口と共に繰り出された右手。少々熱くてしっとりしてるその手が私の汗びっしょびしょの左手を掴んで、引っ張る。
いや、どうしよう手汗やばいんですが、っていうか薫の手熱いしなんか耳とかそこらへん赤かったような……うわ、こっちまで熱くなってき、た

「悠、手熱いよ」
「か、薫もだって」
「五月蝿い」


キラキラパチン!

(なんかもう弾けそう)
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