「悠は俺が護るから」
つないだ手は、とてもあたたかでした。空には沢山の星が輝いていました。(いまにも落ちてきそうなくらいです)
隣の男の子は私の手を強く握って、にっこり笑います。つられて頬が緩みました。なんて幸せそうな笑顔でしょう!
細い腕が私を抱きしめました。私も背中に手をまわします。あったかい。
まるで、夢みたいです。夢。そう、夢のような――――――、
「悠」
目を開けると、楽しそうな少年の顔が飛び込んできた。
どうやら私は戦地から少し離れた崖の上で寝ていたらしい。
「見てごらん……人間たちが互いを殺しあってる。なんて馬鹿なんだろう!」
ときどき響く大砲の音と少年……いや、薫の笑顔がひどくミスマッチだった。
「弱ったところを俺の羅刹が叩き潰す。そうしたら、もうこんな戦争は終わりだよ。俺の、……俺たちの国を作れるんだ」
―――――深い、怒りのような、哀しみのような、憤りのような…様々な感情が渦巻く濁流が、喉元まで込み上げてきた。
やっとの思いでそれを飲み込み、口角を上げる。
私の歪な笑顔に満足したらしい薫は、黒布を巻いた腕で私を包んだ。
「悠は俺が護るよ」
背中の腕は冷たかった。
私はゆっくり目を閉じる。
「屋敷では悠が護ってくれた。だから、今度は俺が護る」
抱きしめ返すことは、しない。
ただ、凍ってしまった彼の心の溶かし方を、ぼんやりと探していた。
僕らは同じ場所で
違う月を見ている
(抱きしめ返してくれるまで、俺はずっと、)