もし君が
日増しに下がっていく気温を登下校で実感しながら、今日も母校への長い坂を歩く。二回折ったスカートの丈はぎりぎり怒られるか怒られないか。ただし、今日の風紀監督が銀八だったらどんなに短かろうがそんなに怒られない。「ほどほどにしとけよ、エロ親父共の餌食になるぞ」とゆるーく忠告され、素直に肯定すればそれで終わり。なんていい加減なんだ。
もし君が本気で
手渡されたプリントをしげしげと眺める。進路希望書なんて気の詰まる紙はこの世にいらん、と割かし本気で思っている。将来のことなんてわからない。どうにかなるよ。どうにもならなくなったら、その時はその時だし。私ずっと高校生でいたいなあ。
「へえ、だから白紙で提出なんてベタなことをやったんですねィ」
私にプリントを渡してきた沖田総悟は軽薄な笑みで私を見下ろした。沖田は頭がいいから嫌いである。
もし君が本気で僕に
嫌いだけれど、どういう訳か沖田総悟は私の恋人になっているので、放課後こうやってくだらないことを話すのは定番だ。
「大人になりたくない、みたいな。たぶん皆で喋るのもお酒を飲みながらになって、段々責任とか婚期とかなんかいっぱい圧し掛かってきて、どうにもならなくなる気がする」
「今現在どうにもならなくなってるんじゃ」
「うるっさい」
真っ白なそれを沖田の腹部に押し付ける。紙はくしゃくしゃになって、とてもじゃないが提出できそうになくなった。よっしゃ。
ぐしゃぐしゃのそれが沖田の手に渡り、何を思ったか、サド王子は紙を更に丸め込んだ。ぐしゃぐしゃのぐちゃぐちゃのぼろぼろだ。
「……なにやってんの?」
「進学したくないんだろィ」
「それはそう、だけども」
「卒業したら、二人で旅とか出る。やりたいことやって、金が無くなったら住み込みでバイトとかして。楽しいだろうねィ」
「いいねえ、そういうの凄い好きだよ」
もし君が本気で僕に「逃げたい」と頼んでいたなら今すぐ自転車の後ろに君を乗せて海でも山でも外国でも、どこへだって連れて逃げてあげるのに。君とならどこへだっていけるよ、本当に、絶対に。
でも
「ちょっと銀八に新しい用紙貰ってくるわぁ。面倒くさ」
「五分以内に帰ってこなかったらフルーツ牛乳」
「音速で行ってくる!」
力いっぱい丸め込んだ紙屑を、外へ投げた。
※勝手にこっそり雪子様へ捧げます。ハッピーバースデー。