私はアレン・ウォーカーという男が大嫌いであった。ぺらぺらな笑顔で物事を動かしてきたその狡猾さに吐き気がする。非難しているのではない。純粋にそういった類の人間が苦手だったのだ。
彼のほうから一定の歩み寄りはあったものの、私はそれをことごとく突き放し、神田まではいかないがそれなりの言動もとった。流石にあちらも厭になったに違いないと確信した時に、丁度アレン・ウォーカーと共に任務へ赴くことになってしまった。なんと運の悪い。
行きの汽車は無言で過ごし、到着場所でようやく「よろしく」と言い合った。私はそんなに強くないし、それなりに頼り合っていこうと思っていたのだが、向こうは何を思ったか別行動を推奨してきた。案外嫌われているらしい。長く話すのも憂鬱だったので、二つ返事で了承し解散した。

森に入るとアクマが現れた。
文字通り、私が畦道に足を入れた瞬間、周りの木々がざわめき何とも形容しがたい異物がふよふよと現れたのだ。
舌打ちした後イノセンスを発動し、(未だにこの感覚は慣れない。例えるなら、全身の毛穴にナメクジをぶち込まれたようなおぞましさである)
対アクマ武器である鉈を振り回しながら、アレン・ウォーカーのことを考えた。
柔和な笑みを浮かべ、決して崩れない態度を貫き、時々芯の強さを見せる。思想は青臭く偽善的で、自ら破滅に向かっているとしか思えないし、はっきり言って正義を振りかざす姿は馬鹿げた道化にしか見えない。

レベル1のアクマの攻撃は、周囲の植物を枯らしていった。


私は12になるまで孤児院に居た。擦れた生意気なガキだったから、友達もいなかった。持ち物は時々何処かへ出かけてしまった。飯時になれば自分の分だけが用意され忘れるなんてよくあること。不屈の精神を持って、私は戦った。来る日も来る日も拳を振るっていたら、いつの間にかガキ大将と呼ばれる地位についていたのは驚きである。
百戦錬磨の大将はある日数人の大人に「世界の為に戦わないか」と黒の教団勤務に誘われた。
私は渋ったが、数人の部下にそれを相談したらあからさまに安堵の表情を浮かべたので、数発殴って泣き喚きながら孤児院を出た。
やっと居場所を見つけたと思っていた。仮初の言葉を真の親しみと捉え違えていた。
彼らが笑っていたのは、私の機嫌を取りおやつを分けてもらうためだったのだ。
馬鹿げた話にしか聞こえないかもしれないが、当時純粋だった私は相当なショックを受けた。自分が冷遇されるのはこの性格の所為だとわかっていたが、だからといって優しくしても姑息な輩はいるのだと理解した。生まれて初めて声をあげて泣き、自棄を起こしたガキは入団早々神田ユウと揉め事を起こした。


私はアレン・ウォーカーが嫌いだ。どんな事情があるにせよ、人を騙して金を得るなんてとてもじゃないが褒められたものではない。アクマに囲まれた私の腕を掴み、必死に戦う姿を見たってそれは変わらない。いくら優しい言葉を貰おうとも、私は彼が大嫌いだ。自分から死ににいくような真似をするのは阿呆のすることである。アレン・ウォーカーが嫌いだ。散々嫌がらせをしたのに助けてくれるアレンが嫌いだ。戦闘が終わって直ぐに私を気遣うアレンが嫌いだ。いかさま野郎。うそつき。卑怯者。無償の笑みが嫌いだ。私は何も与えていないのに。敵の全滅も確認しないで人の心配をする軟弱者が嫌いだ。
おかげで、私が飛び出さなければならなくなった。



口元を押さえた指のすきまから、緋がとろとろとこぼれて、地面にテンテンと染みをつくる。髪を巻き上げる突風が彼の白い前髪を攫い、星の呪いが露になった。

「なんで庇ったんですか」

返事はしなかった。できなかった。
生が感じられない場所で、唯一私の足元に液体が広がっていた。
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