※「生温い猛獣」の続き



「斎藤さんはどうして私にばかり絡むんでしょうか」

 その割りには笑った顔とか見せてくれませんし。
 むすっと膨れた顔を見て、僕は言いようのない感情が込みあがるのを感じた。一番近いのは『面白い』かな。

「悠ちゃんははじめくんに笑って欲しいの?」
「そりゃあ、しかめっ面よりは」
「ふぅん」

 はじめくんが口を滑らせたその夜、勢いで屯所に帰ってしまった彼は自棄酒をしたらしい。そりゃあ、好きな子のことがよりによって僕に知られちゃったんだから仕方ないといえば仕方ない。
 えーっと、それで? ああそうだ、それで自棄酒して、流石のはじめくんも酔っちゃって、そこに現れたのが恋に焦がれた相手だったから、まあ。いくらはじめくんが理性の塊だったとしても、頭の中が悠ちゃんで一杯だったときに本人が出てきたら我慢できないに決まってる。……ところが、我慢できたから驚きだ。それで、二人は気まずくなっちゃって、はじめくんは死ぬほど後悔して。……また、飲んじゃったんだよね。
 面白すぎる。

「でもさ、はじめくんは悠ちゃんが傍にいるときが一番笑ってるよ?」
「え!? いつですかそれ! 見たことないです!」

 むせたら青い顔した悠ちゃんが部屋に飛び込んできて、しかも僕の名前なんて呼んでたから、嫉妬で理性なんてぶっ飛んでいった、と。ここまでがはじめくんから聞き出せた情報。夜を共にしちゃったのかどうなのかは想われ人の方に聞こうとしたけど、この様子じゃまだそこまでいってないみたい。

「そりゃそうだよ。君がはじめくんの方向いたら、あっちは真面目な顔つくるんだから」

 君のほう見て、優しく笑ってるんだよ。ほら、今も。
 にやにやしながらそう言えば、勢いよく後ろを向いた彼女。目線の先にはしかめっ面のはじめくんが居た。

「あれ、さっきまで笑ってたのに?」
「……沖田さんのばかっ」
「? 総司、身体は大丈夫なのか。それから、……悠、は、山崎の荷を……」

 ああ、面白すぎる。


***
それが『萌え』ですよ沖田さん。
一応これで終わり
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