水道で顔を洗い、後ろにいるはずの友達へ「タオルない?」と聞いたが、返答はなかった。置いていったな、あいつめ! と少々憤慨しつつ振り替えると、友達どころかふざけ合っていた男子もいない。天井からぶら下がっている時計を見て、授業開始まで全然余裕があるのを確認。心臓がぐにゃりと形を崩す。

「誰もいないって……」

 近くの教室を覗いてみたが、先生も生徒もいなかった。空っぽである。順々に教室を覗いて回り、科学室、家庭科室、保健室、全部隅々まで調べたが、人っ子一人見かけない。冷や汗は背を伝いシャツを湿らせ、奥歯はカチカチと震え続ける。世界中の人が消えてしまったんじゃないか、なんて馬鹿な妄想を膨らまして独り廊下で蹲る。そうだ、携帯使おう、なんて今更すぎる思いつきを実行したが、ポケットから携帯電話を取り出した瞬間、その画面に一筋の線が走り、鋭い音と共に砕けた。手のひらに赤いしずくが一本通り、何がなんだかわからないまま私は泣き出す。

「なんで泣いてるのぉ?」

 視界にボーダータイツと真っ赤な靴が入り込んだ。意識せず顔を上げると、髪の短い女の子の笑顔とぶつかる。可愛い子だった。

「ボクのなまえはロード。よろしくねぇ、悠」

 なんで名前知ってるの、とか、よろしくって何、なんて陳腐な言葉はいっちゃいけない気がして、差し出された手を掴んで立ち上がるしかなかった。つながれた手と手はそのまま握手となり、その後熱烈なハグを受ける。人に出会えたというのになんだか恐ろしくてたまらなくなり、同時に痛み出した額を片手で抑えつつ逃げようとした。

「無理だよ悠、ぼくらは家族だ」

 暗転。何もわからない。もう戻れない。

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