ふれたら粉々になってしまいそうで、――事実それは温度を感じると壊れてしまうのだけど――儚いもの特有の美しさがそこにあった。
 七色の淡い光を放つ花。それが幾千にも続く野原は、私が作り出したものだ。

「これが私に出来るすべてです」

 言い終えて、迫る死を覚悟した。使えないものは切り捨てる。それがヴォルデモート卿だからだ。

***

 呪文の研究に手間取った私は、見事ホグワーツ特急に乗り遅れた。仕方ないとふくろう便でも出そうとして、辺りの空気がまるで南極のもののように冷えているのに気づいた。ただ冷たいだけでなく、感じる人の背骨を固めてしまう恐怖も満ちている。
 頭の隅で、"やみ"の二文字が小さく笑った。

「来い。お前には幾億の可能性がある」

 いつか言われた言葉が、全く異なる性質の人物から放たれる。アルバス・ダンブルドアの願いは何だったか。思い出す前に、頷いていた。ハッフルパフに配属された私は、人一倍の勇気なぞ所有していなかったのだ。誠実なんて、くそくらえだ。私は色んなものを裏切ってしまった。
 可憐に舞う蝶、芳しい香りを放つ花々。淡い光を添えて、どうか皆穏やかでいられるようにと願う。願っていた。
 己の保身の為に輝く魔法は、なんて醜いものだろう。気持ち悪い。許されるなら今すぐ消し去ってしまいたいけれど、怒りに触れるに決まっている。何も出来ない私を、どうか笑ってください、ダンブルドア先生。

「俺の書斎にある本、すべて読め。それから、新たな術を構築しろ」

 花弁が舞う。野原が腐っていく。死ねないという絶望と、闇に染まる未来への失望が全身を締め付けた。
 どうして、と呟いた私に、闇の帝王はくつりと笑って答える。

「貴様の有り余る魔力を知って、欲しがらない馬鹿はいないだろう」

 逃げようとして、やめた。更なる苦痛を味わうことになる。それならば、いっそ――。

 うつくしい世界をつくりたかった。目に見えない恐怖に怯える毎日を、強い光で消したかった。人より多くの持ち物があるなら、それを使って皆を幸せにしたかった。

「アバダ・ケダブラ」

 ヴォルデモート卿が激昂するのを見て、私は静かに微笑む。緑が世界を染め上げる。意識が遠くなって、そこからはもう、何もわからなかった。

***

「君には無限の可能性がある。……ホグワーツへ、ようこそ」

 皺くちゃの手を握り、握手を交わす。別れの挨拶を述べたあと、ダンブルドア校長は悪戯っぽく囁いた。

「その力が生かされるよう、祈っておるよ」

 いつかもこんなことがあった気がする。
 ふとそう思ったけど、長い長い白銀の髭の爺さんと言葉を交わすなんてなかなかある事ではない。あるならしっかりと記憶に残る筈だ。
 応答をしていなかったのを思い出し、ええ、と返して遠慮がちに微笑んだ。
 とりあえず自分が認められたことを喜ぼう。

¡!¡!¡!

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