くぐもった音の後に空気を裂いて飛んだ光は、壁にぶつかると勢い良く弾け美しい結晶の花を咲かせた。小さな欠片が宙を舞い、幻想的な世界を作り出す。ダイヤモンドダストに類似した耀きだった。
その筋のコンテストに出れば優勝間違いなしの出来栄えだったが、戦闘用にしては煌びやか過ぎるそれに、闇の帝王は顔を顰めた。
「……殺傷力重視と言ったはずだが」
「もちろんですよ」
一直線に目標に向かって飛ぶ様は流星そのもの。見事目標に当たれば、何十もの結晶がその体を貫き、散った破片が肺に入れば死をもたらす。
どうですか、良い呪文でしょうと言うと、何故か帝王は苦い顔をして黙り込んだ。
「……どこがお嫌なんですか」
発言を待てず、痺れを切らして問うた声は、少しだけ震える。気に入らないと一言、その後に自分の命はないかもしれないのだから。
ヴォルデモート卿は鋭い目元を少し緩め、顔から表情を消した。まるで人形みたいだ。精巧に作られた陶器の人形。その冷たい唇から、色のない声が出る。
「飾りは、いらん」
咄嗟に言葉は出なかった。
"美しさ"を求める悠にとって、それを否定されるのは最早自己を拒否されたに等しい。
相手が誰であるかも忘れ、感情のままに呟く。震える声は恐れからではなく、怒りによるものだった。
「私はっ……私は、美しいものをつくりだすのが好きだし、それしか出来ません。飾り付けることが私の意義です。貴方がそれを不要というなら、」
その先は言えなかった。緑の閃光が視界に溢れる。強烈な不快感が胸に込み上げ、眩暈がした。立っていられない。
意識の底へ、落ちていく。
***
「君には無限の可能性がある。……ホグワーツへ、ようこそ」
皺くちゃの手を握り、握手を交わす。別れの挨拶を述べたあと、ダンブルドア校長は神妙な面持ちで話し始めた。
「幾億の可能性の中、どれを選ぼうとも君の自由じゃ。個人的な望みを言うなら……ふむ、闇には染まって欲しくないのう」
瞬間、何かが脳裏を過ぎった。視界の端に何かが映ったけれど、確認してみると何もないみたいな、そんな見間違いのようなもの。
気のせいだろう。無理矢理納得し、ダンブルドアと目を合わせた。
「もちろんです。九月から、よろしくお願いします」
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