目が覚めたのになにも見えない。暗闇だ。灯りを点そうと小さな星を作ったが、光は驚くほど微弱で、すぐに消えてしまった。
 四肢に力が入らないというのは初めての経験だったので、私は些か混乱した。死に向かう病気にかかったのかと思ったけれど、ふと"疲れる"という単語を思い出し、今現在その状態だと理解して落ち着きを取り戻した。魔力も徐々に回復している。あとは、此処が何処なのか分かれば万々歳だ。
 まず自分が寝ているこれは何なのかを考えよう。固くはないからテーブルやら地面やらではないだろう。自分の体温で温まっているこれは日ごろ使っているベッドと同じ感触、むしろそれより心地良い。……うん、これはベッドだ。それも特上の。
 他に手がかりはないだろうか。ごそごそとベットの中を漁ると、指先に滑り気を感じた。少々嫌な予感。私は確かヴォルデモート卿に攫われ、そのヴォルデモート卿は大蛇を飼っていたような。蛇の鱗は粘膜で覆われて……いたっけ? ああ、もっと勉強しておけばよかった。とりあえずこのヌメヌメはなかったことにする。

「やっと起きたか」
「ひッ!」

 声がしたかと思うと、いきなり部屋が明るくなった。シューシューとベットの中から音がして、予感は当たっていたと知る。いや、知らない。知りたくない。
 相手を射殺すような目で見つめる自分に、ローブ姿のヴォルデモート卿は嘲笑を投げて寄越した。

「お前には呪文の開発を行ってもらう。逃げようとしたら……」
「私の利益は何ですか」

 腐ってもスリザリン生。タダで働くわけにはいかない。整った眉目が歪み、蛇が足首に巻きついても引くものか。一応私の夢は戦争をなくすことなわけだし、それに邪魔なのはこの人だ。逆らって死ねるなら本望、ではないが、まあ幾分気は済む。
 彼の唇の形はなんとも妖艶だ。しかし、私は相手が美形だからといってそれに靡くような人間じゃないし、そもそも人より美しいものを何千と見て、作り出してきたつもりだ。ヴォルデモート卿はこの程度の容姿で人を惑わした気にならないでほしい。

「殺されたいのか」
「えっ? 何でですか、私逃げてません」
「その勝ち誇ったような顔をやめろ」

 黒髪の美青年は忌々しそうに舌打ちをして、足早に部屋を出て行った。思っていたより人間味があって僅かに安心。
 ふうっと息を吐いて、ベッドのヌメヌメを吹き飛ばした。勿論魔法である。
 周りを見渡して、随分と殺風景な部屋だと気づく。これは改造しても良いだろうか? たぶん此処に住むことになるし、それならなるべく自分の好きな場所にしたい。

「食事は部屋の前に置いておく。風呂は適当に入れ。そこのドアからシャワールームへ行ける。広い部屋が必要なら俺様を呼べ。利益は……」

 いつのまにか戻ってきた闇の帝王は、きつい声で捲くし立てながら杖を投げた。白樺、芯はユニコーンのたてがみ。33cmの相棒である。

「……何かあれば、そのつど言え。可能ならば叶える」

 こうして、私の軟禁生活は始まった。






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