小さな頃から不思議なことが出来て、周りからは気味が悪いやら超能力者やら色々言われていた。そういう環境で育った所為か、幸い性根は屈折することなく、自分の信ずるものを成せば良いと思うようになった。つまりは、傍若無人である。
 暇なときは床に花を咲かせ、丁寧に花輪を作りティアラに変えた。それを母にプレゼントすると、母は奇声を上げてティアラを叩き潰したので、仕方なく粉々のそれを花に戻した。母は卒倒した。
 またある時は、噴水の水を硝子細工にして父に見せた。今思い返しても相当見事なものだったと思うが、父はぼんやりと見蕩れているだけだった。とりあえず元に戻し、おまけに虹をかけた。父は目を潤ませた。

 とまあこんな感じで私の魔力は周りに溶け込めず、常に賞賛と畏怖の眼差しを浴びていた。少々寂しかったが、自分が"普通の人間"で、子供が不思議な能力を使えたらと考えると、やはり自分も両親と同じ様にするのだろう。そう思い続けて早十一年。普通の、なんでもない日にそれは届いた。

「ホグワーツ」
「魔術、学校……」

 魔法界の皆さんならよくご存知だろう。我らが母校ホグワーツからの入学許可証的な手紙である。残念ながら私の母親は夢見る心を失っており、逆に父親は少年の心を持っていたので、二人はこの件で揉めに揉めた。連日罵り合う様子は醜いものだったので、呆れた私は二人に猫の尻尾を生やし喧嘩を止めさせた。その時颯爽と現れたのが――そう、ダンブルドア校長先生その人である。
 それからはとんとん拍子に話は進み、私はホグワーツに入学できることになった。あの爺さんまさか脅してないだろうなと、全くもって失礼なことを考えながら、話し合いが終わるまで自室に居るという言いつけを守った。私にしては本当にめずらしく守った。その爺さんの言うことは絶対な気がしたからである。「部屋でおとなしくしているのじゃ、悠」の一言で素直に引っ込んだ私を見て、両親は目を丸くしたに違いない。

「君には無限の可能性がある。……ホグワーツへ、ようこそ」

 皺くちゃの手を握り、握手を交わす。別れの挨拶を述べたあと、ダンブルドア校長は悪戯っぽく囁いた。

「そろそろ、ご両親を人間に戻しても良いかの?」


***


 入学して、初めて自分の力が他人の比でないことに気づいた。物体を浮かせるなんて呪文を唱え杖を振らずとも出来たし、ハリネズミをボールに変えるなど、瞬きをするほど自然にやれた。呪文学と変身術のクラスにおいて、悠に敵う者はいなかったのだ。

「貴女の能力は素晴らしいものです、ミス・高橋」

 マクゴナガル先生は踵をカツカツ鳴らして私の前を通り過ぎた。部屋の端まで行くと、また戻ってくる。カツカツカツカツ、まるで時計の秒針みたいだ。

「しかし、能力に頼りすぎるのもどうかと思います。魔法薬学や魔法史、薬草学では……」

 全力を出して良いなら、この瞬間にホグワーツを巨大デパートに変えることだって出来ると思う。それから、廊下の至る所に星屑を散らばし、歩くたびに心地よい音が鳴る、とかどうだろう。……うん、良いアイディアだ! あとでやってみよう。
 マクゴナガル先生のお説教も終盤に差し掛かり、悠は必要以上に真面目くさった顔で先生の顔を見つめた。本来ならスリザリン寮生の悠にはセブルス・スネイプ教授がお灸を据える筈なのだが、ファンタジックなものを好む悠とはそりが合わないらしく、彼は悠と関わるのを避けていた。最も悠もスネイプ教授をそれほど好いているわけでもなかったので、まあ差し支えはない。多大な迷惑がかかるのは代わりに彼女を叱らなければならない他の先生方。お気の毒である。

「そもそも学生の本分というものは勉学に勤しむことであり……」

 つまり私はブラックシープ。厄介者というわけだ。厄介者の割には綺麗な世界を生み出すので、フィルチも怒るに怒れない。アア厄介厄介、面倒な生徒だこと。

「わかりましたか、ミス・高橋」
「ええ、しっかりと。私もっと頑張ります」

 もっと頑張って、勉強して、皆が怒ったりいがみ合ったりする気が起きないくらいうつくしい魔法を。


***


 ふくろう試験を終え、私は無事夏休みを迎えることが出来た。ボーイフレンドの類はなかなか出来なかったが、出来たとしてもそれに構っている暇はないので丁度良かった。
 欠伸をしながら羽ペンを手に取る。まずは宿題を終わらせないと。

「――……!」

 悲鳴。反射的に杖を取り、階段を駆け下りた。鉄の匂い。保護呪文を唱えた瞬間、衝撃が呪文の壁にぶつかった。パリンと結晶が散り、周囲に煌めく霧を作る。悠特有の呪文だ。
 靄が晴れた先に立っていたのは、たった一人の男。

「来い」

 誰だ、と聞くには有名すぎる相手だったし、拒否するには強大すぎる魔法使いだった。
 艶やかな黒髪を爆風に靡かせ、紅い瞳を細める。闇の魔法使いの代名詞、ヴォルデモート卿。
 整った容姿に見合う笑みを浮かべ、悪戯に囁いた。

「お前の両親は、もう駄目だ。諦めろ」

 部屋が凍りついていく。冷やりとした空気の根源は自分だ。動いたら殺されると直感で判断した悠は、両親の身体を氷で急激に冷やし出血を止めることにした。
 しかし、ヴォルデモートがそれを許すはずもない。薄い唇が知らない言葉を紡ぐ。砕けた保護以外に悠を守るものは無く、強力な呪文は悠の体に直撃した。
 視界は暗転し、氷の上に倒れ込む。杖が指から離れるのを感じたのを最後に、悠は闇に堕ちていった。






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