雪子様より管理人誕生日プレゼント




ミンミンと蝉が騒ぎ立てる。窓から見る青を忌ま忌ましく思う。寝転びながらアイスを食べているとどろりとそれはあたしの手に落ちた。それに嫌悪感はなく、アイスを直ぐさまごみ箱に投げ捨てた。ごみ箱に入ったそれを愛犬がふんふんと嗅ぐと興味が失せたようにまた冷たい床に寝転がる。

ミーン
ミーン


「…あつい。」

アイスがついた手を舐めながら言った。するといつの間にか横にいた二匹目の愛犬があたしの手をべろりと舐めた。

「あ、こらっ!」

寝転んでいた体を勢いよく起こすとアイスのついた手を上に上げる。

「犬はアイスなんて食べないの!てゆーか、あんた一階にいたんじゃないの!?」

「いやー、すごい歓迎だな。」

あたしはばっ、と扉を見た。見て、また手を舐めた。

「なるほど。というか何、その涼しげな顔。暑くないのー?その厭味ったらしく黒いパーカー!」

「ようは心の持ちようだろ?」

そいつは冷ややかに笑いながらあたしの横に座ると浴びていた扇風機を自らの方に向けた。

「あー!あたしが使ってるのに!」

「なんでもいいからその手、どうにかしなよ。」

「………。」

扇風機を指差したままの手を下ろし、洗面所に急いだ。

とことこついてくる一階にいたはずの愛犬。

「あんたは可愛いね。ったく、あいつなんなんだよ…。」

キャミソールの腹部分をパタパタとしながら歩く。

洗面所でじゃぶじゃぶ手を洗うと同時に顔も洗う。

「………。」

濡れた顔を鏡で見てうなだれる。


「……最悪。」


化粧してない………。




* * *



「あ、おかえりー。」

自分の部屋の扉を開けると相変わらず涼しげな顔でひらひらと手をふる折原臨也がいた。

「………茶。」

「ありがとう。」

差し出すと奴は警戒もせずそれを飲んだ。さっきまで床にいた方の愛犬はビックリするくらいに臨也にべったりだ。

「…で、何。」

臨也の向かいに座り扇風機を占領する。そいつはさしてそれを気にするでもなく茶をのんだ。

「いや、宿題は終わったかな、って。」

「馬鹿か。あたしもあんたも学生じゃない。」

「懐かしいねー。夏休みが補習で潰れたあの日々。」

「あんたは補習じゃなかったけどね。」

彼はやれやれと息を吐いた。あたしはまた窓から空を見た。入道雲が居座る空。

「何、空ばっかり見て。楽しい?」

「あんたと人間観察するよりは。」

「またまた…。」

彼は肩を上げて大袈裟に振る舞った。…まったく。

「で?あたしに宿題はないし勿論あんたにもない。…なんかよう?」

「用がなきゃ来ちゃいけない?」

「……はぁ、」

もうどうでもいいや。あたしは息を吐いた。

あっちーし、あっちーし。もうなんか面倒。つかこの男、暑くないのか…?

「もー、あんたの黒い髪の毛見るだけで暑い。」

犬片手にごろごろするあたしを見る。その赤い瞳は、いつだって冷ややかで涼しげだ。

「名前だって黒い。」

「自分のことはいいの!…あいつですら金髪じゃない。」

「…静ちゃんが金髪ならなおさら髪は染めたくないなー。」

あー気持ち悪。こっち見るな馬鹿。

「っとに。………何見てんのよ。」

「いや、よくそんな格好で男を家に上げるなと思って。」

「この格好はたまたま。今日暑いじゃない。」

あたしが仮にこいつを好きならキャミソールに短パンのこの服装にも合点がいっただろう。でもなんの感情もないし。

「それに、誰もこんなあたし見たって欲情しない。されたらあたし死ぬ。」

「ふーん。じゃあ、言ってあげる。」

「は?」

目の前にぬっ、と影ができる。顔の横に真っ白な手がつく。足と足の間にはもう一本の足。

腕にいた愛犬がパタパタと逃げていく。何故かわからないがあたしは降参の格好をしていた。

「俺が、名前に欲情しなかったことなんてないよ。今だって、ね。」

「……は、」

私の肩紐に手がかかった。




***

まさかこんな素敵なプレゼントを頂けるとは……!
夏なのにムラムラ臨也さん。言ってることはヘンタイなのにかっこいいだと…?
素敵なお話ありがとうございました!
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