カシャア
ひどくわかりやすい音が響いて、その場にいた誰もが此方を見た。緩やかな午後が急速に変化していく。おもしろいくらいに頬を紅潮させたその人は、二回大きく震えた後口をぱくぱくさせた。小骨が喉に引っかかって取れない、そんな感じの動き。もしくは、何か言いたいのに言葉が出ない時の表情。
「海藤くん、フルーツタルトはどうかな」
携帯を彼に向けたまま、厚く切った一切れを差し出す。生地に埋まる苺とラズベリー、それから白桃。彼の目玉の真ん前でフォークを揺らすと、一粒のブルーベリーがポロンと落ちた。行き先はアスファルト。可哀想に、この休み時間中に踏まれてしまうだろう。海藤くんが直ぐに食べてくれないから。わざと非難するように言えば、生真面目な彼は開閉していた唇をきゅっと結んで眉を上げた。言葉が、返ってくる。
「そもそも、学校に不要物は持ち込み禁止のはずだろう。ケーキなんて、そんな」
「不要じゃないよ、海藤くんが食べるかなあって」
「! そう、なのか。いやそうであっても! そのっ……」
カシャア。二度目の撮影音に、今度は誰も振り返らない。ただ彼の反応は最初と変わらず。
りんごほっぺとつり目、ふわふわな髪。ケーキの前で慌てる彼を、形に残しておきたいの。
「け、携帯は没収だ!」
「やだ! かわいい海藤くんが残せません!」
「僕はかわいくないし残されたくもないし、」
「小川先輩のつくったケーキは嫌いだし?」
「き、嫌いというわけでは」
反論しようと大きく開けたその口に、甘いタルトをつっこんだ。むぐむぐと苦しそうにする海藤くんに、三度目のシャッター音が襲い掛かる。
カシャア