※学パロ
コンビニに寄って帰ろうと思った。お腹がすいていて、喉も少し渇いていた。
店内に入ると、ひやりと冷気が身体を撫でた。首筋を汗が流れていくのがわかって、思わず眉を寄せてしまう。これだから夏ってやつは。
「あ、高橋さん」
声をかけられ、何の気なしに振り返る。突然のことに知り合いに向ける表情は作れていなかったが、どっちにしろ今は笑顔になる気分じゃない。相手には申し訳ないが無表情で対面させてもらおう。
「……?」
誰も居ない。空耳だったのか?
「いや、こっちだ」
声の方向へ首を動かすと、苦笑する男子生徒がいた。イーノックだ。長めの金髪が額に張り付いていて見るからに暑そう。しかし第二ボタンまでしっかり留めているあたりは流石優等生といったところか。
「イーノックもコンビニなんて行くんだね」
「必要なものがあれば行く程度だから、あまり行かないな」
「やっぱり」
口角をぐいっと上げて、場に合った表情をする。退屈で大変な作業だ。今日は、少しだけこの作業に疲れてしまった。
返答が無いので訝しげに彼を見上げた。イーノックはなかなかの長身なので、首を思いっきり傾けないと表情を確かめることが出来ない。
『やっぱり』は彼にとって不満な言葉だっただろうか。そうなんだ、とか、意外だね、とか、もっと別の言葉を返せばよかったかもしれない。
「おいしいジュースを見つけたんだ。奢らせてくれないか?」
「ジュ、ジュース?」
「ああ」
いきなり会話を再開させたイーノックは、笑顔でそう言って飲み物が並ぶ棚へ行ってしまった。
奢ってもらえるのかな。嬉しいけど、かなり申し訳ない。というか何故急に奢ってもらえることになった? 優等生の思考回路は私みたいな一般的不真面目学生とは一風違ったものなのか?
わけがわからなくなったので考えるのをやめた。彼は優しいんだ、たぶん。
「すまない、少し待たせたな」
ペットボトルを二本持って戻ってきたイーノックは、額の汗を袖口で拭った。なんというか、爽やかだ。私の心とかけ離れたそれに、どうしてかとても悲しくなってしまった。
「口に含むと、こう、パチパチと弾けるんだ。ジュワジュワという方が合ってるかもしれないが……とりあえず、飲んでみてくれ」
「あっ、ありがとう」
渡されたのは何処にでも売っている炭酸飲料だった。……イーノックは炭酸を飲んだことが無かったのか。大方虫歯になると言われ飲まないでいたに違いない。なんて真面目な人だろう。
それはさて置き、参ったな。私炭酸苦手なんだけど。でも、飲まないわけにはいかない。彼の好意を無駄にしたくない。
思い切ってキャップを捻った。プシッと気持ちの良い音がして、イーノックが感嘆の声をあげる。ボトルの底から小さな泡が昇ってきた。
「、……おいしい」
「それはよかった」
嘘、本当は吐き出したくて仕方ない。じりじりと舌を焼くCo2が痛い。液体がパチパチ爆発するたび、目の膜には涙が溜まる。
「スッとするだろう? 嫌なことがあった時によく飲むんだ」
彼の沁みるような声に、私はとうとう泣き出した。