僕は旦那さんに内緒で農場内をジョギングしている。休憩していて欲しいと言われたが、それでは旦那さんを守れるほどの力をつけることが出来ない。何度かバレかけたが、素知らぬふりで欠伸をすれば旦那さんは満足そうに笑う。一度だけ何故鍛えさせてくれないのかと問うたことがあったが、旦那さんは恥ずかしそうに俯いてしまったので、しつこく聞くことは無かった。少し頼りない主人だが、彼女なりの考えがあってやっているのだろう。でも、僕は言いつけを破り走っている。僕にだって目標があるのだ。
 ふと、水面に映ったものに目が留まる。ゆっくりと近づいて、それが何なのか確認する。揺らめく水面にいたのは、精悍な顔つきの若い男だった。水の中で何をしているのだろう。僕が首を傾げると、男も首を曲げて訝しげな表情をした。助けたほうが良いのか? そろりと手を伸ばせば、水面の男も手を伸ばす。もう少しで指先に触れるというところで、旦那さんの大声がした。

「おーい、悠! いないの?」

 慌てて立ち上がり駆け出した。尻尾が風を切り、ひげに冷たい空気を感じる。あの男は何なのだろう。害を与えるような雰囲気ではなかったし、特に救助が必要な気はしなかった。旦那さんは張り切っているようだから、きっとこれからクエストに行くのだろう。帰ってきてから、もう一度見てみよう。まだ居たら、話しかけてみるのも良いかもしれない。
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